アルチュール・ド・リッシモン

結婚の承諾

「フン、小癪な真似をしおって!」
 カレーからボルドーに行くのがそう簡単ではないと分かると、ベッドフォード公ジョンはそう言って、銀色の瞳を曇らせた。
「まぁ、よい。こちらとて、ずっと手をこまねいておるつもりなどないしな!」
 そう言うと、彼は立派な紙にさらさらと文章を書き、封筒に蠟を垂らして自分の印を押した。
「ブルターニュとブルゴーニュを同盟させる! フン、これで人望の無い馬鹿な若造がどう出るか、みものだな!」
 そう言うと、彼はにやりとした。
 そういう表情は、亡きヘンリー5世によく似ていた。フランスで虐殺を行った時の表情と。

「許可が……許可が出たぞ!」
 アルチュール・ド・リッシモンは、ベッドフォード公ジョンから送られてきた手紙に目を通すと、大声でそう叫び、喜びを素直に表現した。それはもう、耳まで真っ赤にして。
 手紙は、ベッドフォード公ジョンからだけでなく、彼の愛しい姫、マルグリット・ド・ブルゴーニュからも届いていた。
 それには、結婚を承諾したので、具体的な日にちと式場は兄であるブルターニュ公フィリップと相談し、結婚後も「ギュイエンヌ公夫人」と呼ばれたいと書かれていた。
 だから、彼としては、「もうこれで結婚は決まった」と思ったのだろう。
「ベッドフォード公ジョンご自身もマルグリット姫の妹、アンヌ姫とご結婚なさるそうだ。ならば、我らは義理の兄弟ということだな」
 そう言うアルチュールは目を輝かせ、興奮でまだ顔が赤かった。
「そうですね。全てうまくいっているようで、本当にようございました」
 そう言ったのは、亡きヘンリー5世が彼につけた侍従のジョンだった。
 本当の主であるヘンリー5世の急死を受け、彼の髪も急に白くなり、疲れた表情になっていた。
「姫様とフィリップ様には、結婚式の具体的なことを決めていただくよう、既に手紙を出しておきましたので、もう少しだけのご辛抱です」
 ジョンと対照的に明るい笑顔でそう言ったのは、金髪に緑色の瞳のガタイのいい男であった。
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