アルチュール・ド・リッシモン

邪魔者

「そのことなのですが………まずは、共通の邪魔者を排除致しませんか?」
「共通の邪魔者? フランス国王を自称しておるシャルル7世のことか?」
「いえ、ブルゴーニュ公のことです」
 そう言うと、ハンフリーは微笑んだ。
「ブルゴーニュ公フィリップか………。オルレアン公らのアルマニャック派と対立しておる割には、我らにも非協力的だ。確かに、目障りといえば目障りではあるな」
 ベッドフォード公ジョンの言葉に、グロスター公はにやりとした。
「では、我らの計画にお力をお貸し下さい、兄上」
「う、うむ………」
 グロスター公の言うまま、ベッドフォード公ジョンもブルゴーニュ公フィリップ暗殺計画に加担した。薄々、それが彼の妻、ジャクリーヌ・ド・エノーの計画だと気付いていても。
 嫌な予感はするが、ハンフリーがこれだけやる気になっておるのだ。それを止めるのはよくないであろう。
 ベッドフォード公は心の中でそうつぶやき、自らを納得させるかのように頷いた。
 が、彼の予想通り、フィリップその人に計画がバレ、失敗してしまったのだった。

「亡き父上は『イングランドとの争いには参加するな』と仰せであったが、あやつらは信用ならん! この私を亡き者にしようと画策しおったのだからな! まったく、これではアルマニャック派とさして変わらぬではないか!」
 金髪巻き毛に青い大きな二重の瞳(め)。顎髭も髪と同じ金色で、短く綺麗に切り揃えてあった。
 ───そんなどこをとっても「品の良い貴族」といういでたちの善良公フィリップは、あからさまに顔をしかめてそういうと、傍にあったテーブルをドンと叩いた。
 それは、いつも柔和な笑みを浮かべ、領民にも優しいと評判の彼には、非常に珍しいことであった。
「まぁ、落ち着いて、フィリップ。未然に防げたので、よかったではないですか」
 そう言ったのは、そのフィリップの姉、マルグリットと結婚し、顔が少しマルクなってきたアルチュール・ド・リッシモンであった。
「何を申すか! ちっともよくはないぞ、アルチュス! あの女はきっと、又何か仕掛けてくるに違いないからな!」
「ああ、ジャクリーヌとかいう、グロスター公の妃のことですか………」
「いや、妃などではない、愛人だ! あやつはまだ、父上が決められたブラバンド公ジャン4世の妻であるはずだからな!」
 そう言うと、ブルゴーニュ公フィリップは再び机をドンと叩いた。
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