アルチュール・ド・リッシモン

蛇女

「あの蛇女め!」
 そしてそう言うフィリップに、アルチュールは苦笑した。
 普段、滅多に女性のことを悪く言わない彼が、ここまで言うのだから、余程なのだろうと思いながら。
「では、再婚の話は無理ですか………」
 思わずアルチュールが口に出してそう言い、ため息をつくと、フィリップは目を丸くして彼を見た。
「再婚? 誰がだ? マルグリットは既に君と再婚しだだろうが」
「ですから、私ではないですよ。ブルゴーニュ公、あなたです」
 いつもの「フィリップ」ではなく、「ブルゴーニュ公」と呼んだことに、フィリップは目を丸くした。
「私か? では、政略結婚ということだな?」
 確認するようにフィリップがゆっくりそう尋ねると、アルチュールは頷いた。
「ええ。一応、相手は伯爵家の令嬢ですし………」
「どこの国のだ?」
「フランスです。ウー伯をご存じですか? 私と同じようにアザンクールの戦いの後、ずっとイングランドの捕虜になっておりましたので、会われたことはないと思いますが………」
「ほう! 名は何と申す?」
「ボンヌ・ダルトワです。母君がベリー公ジャンのご令嬢、マリー様ですので、オーヴェルニュ公領もお持ちだとか」
「ふむ、ならば、断る理由など無いな。進めてくれ!」
 フィリップがそう言うと、アルチュールは満面に笑みを浮かべて頷いた。

 当時、ブルゴーニュ公フィリップには、既に愛妾がいた。それも、数人。だから、見た目がいいことにこしたことはないが、それより相手の持つ持参金や領地の方が重要だったのである。
 アルチュールは一人の女性だけを思い続け、その彼女以外とは結婚もせず、まだ愛妾も持っていなかったが、そういう彼の方が珍しかったのである。

「そうそう、アルチュス、君の元帥就任問題だが、三部会にかけておいたぞ。なに、心配することはない。私が賛成しているということは伝えておいたし、フランスの為だということを言っておいたからな。ベッドフォード公がイル・ド・フランスやノルマンディーで三部会にかけたことに対抗して、のものだ。単なるベッドフォード公へのパフォーマンスだと思っておけばよい」
「はい、ありがとうございます」
 そう言ったものの、少しアルチュールの表情は不安そうだった。
 が、幸いなことに、フィリップ善良公の思惑通り、アルチュールの元帥就任が可決された。
 ここに、アルチュールの元帥就任式が行われることになったのだった。
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