アルチュール・ド・リッシモン
14章 寵臣の腐敗

リッシモン暗殺計画

「わいろを取ることしか能が無いくせに、私の暗殺計画まで画策しようとは! 私がいなくなったら、一体誰がイングランドと戦うというのだ? まったく、目先の利益しか考えておらぬバカは、これだから嫌なんだ!」
「まことに………」
 アルチュールの横で苦笑しながらそう言ったのは、ラウール・グルエルであった。
 金色の巻き毛には白いものがちらほら混ざり始めているが、顔は盾持ちとしてフィリップ善良公から遣わされた時よりかなり大きくなっていた。
「元帥閣下の御身は我らが出来るだけお守り致しますが、議長まで怪しい動きを見せているようですので、どうかお気を付け下さいませ」
「議長? どこのだ?」
「パリのです。名前は確か、ルーヴェだったかと………」
「そいつが私を暗殺しようとしておるのか?」
「いえ、どちらかというと、陛下を傀儡(かいらい)にしようとしているようで………」
「フン、なら、心配は無い!」
 アルチュールは鼻で笑うと、そう言った。
「もう既に傀儡になっているようなものではないか!」
「それはそうなのですが………」
 ラウールが苦笑しながらそう言った時、一人の痩せた少年が中に入って来た。
 それを見ると、彼は手紙を手紙を渡しながら、口頭で指示を出した。
 ラウール・グリエルは、盾持ち兼秘書兼参謀のような働きをしているようであった。
「この状況をイングランドに利用されねばよいのだが………」
 アルチュールはラウールの有能さについてはよく分かっているつもりであったが、そうつぶやかずにはいられなかった。
「とりあえず、取れるところから取っておくか………」
 1425年7月、ベッドフォード公ジョンはフランス国内の屋敷内の執務室でそう呟くと、立ち上がった。
 そして早速、その言葉通りメーヌ州に侵入し、その周囲を侵略していったのだった。
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