たった一つの隠し事
頬に触れていた彼の手が、その長い指を滑らせて私の首裏に回り、私はそのまま抱き寄せられてしまった。
彼の品の良い香水の匂いが、寄せられる温もりが、私を取り巻く。
途端に不思議な安堵が胸にほどけ、それまで堪えていたものが目許に熱を覚えさせて。
……彼の広い胸に縋るようにして、私は泣き出してしまった。
「私、あなたなんか知らない。今こんな事してる場合じゃないの…!」
「知ってるよ。理子は今、大事なものを探してるんだろ」
「分かってるなら放して。探さなきゃ。絶対失くせないものなの」
「そんなに俺が大事? 嬉しいね」
「……え?」
私は涙に濡れた顔を上げて、彼の間近い面差しを見上げた。
そして淡い微笑みを返してくれる彼と眼差しが絡んだその瞬間、私は思い出したのだ。
彼が誰であるのか。