たった一つの隠し事
私が理解した事を悟ったのか、彼の形の良い唇が頬に触れて、私の涙を優しく拭い取ってくれる。
「もう泣かなくていい。俺は傍に居る」
「何処に行ってたの。私がどんなにあなたを探したか」
「分かってるよ。心配を掛けた。そんな顔をするな」
「あなたは私の全てなのに。私の大事なものは、全部あなたのものなのに」
「それも分かってる。俺以上にお前を知ってる男は居ない」
しゃくり上げる私を胸に抱き、彼の大きな掌が宥めるように私の背をぽんぽんと叩く。
彼の唇の柔らかさが、耳傍に寄せられた事が分かる。
口付けられた耳先が、赤く染まっていく。
「俺は理子の全てを知ってる。お前の癖も、責められたら苦手な場所も」
「あ……」
「だがたった一つだけ、俺の知らない事がある」
「そんなもの、無いわ。あなたに隠し事なんてするはずない」
「お前は自分で分かってないだけだ。自分の心を見詰めて、よく考えろ」
「何のこと…!」
「お前の本心だよ。お前の大事なものは全部手に入れてやったつもりだが、たった一つ、それだけは俺は手に入れられなかった」
「あ、駄目…」
耳から辿り下りた彼の唇が、項に触れた。
そこにきつく吸い付かれる感触を覚え、彼のしるしを肌身に刻まれた事が分かる。