金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
そうして、定期考査をなんとか終え、やっと金曜日の放課後がやってきた。
「ああああああ」
隣でぐったりとりっちゃんが頭を抱えている。
袴姿の時は大抵しゃんとしてるりっちゃんだから、こんな姿は珍しい。
「あああああああああああ」
更に頭の横振りまで追加して、りっちゃんは憂いている。
でもりっちゃんのことだから、部活に行っちゃえばなんてことないように素振りし始めるんだろうなぁ。
なんて、私は黙って見つめている。
と、りっちゃんがぐるりと顔を回してこちらを向いた。
「どーーーせ琴子はいつも通り出来ちゃったんでしょーけど、そんな哀れみの目で見ないでよー!」
「いや別に哀れみの目で見ていたわけでは…。」
私は笑って取り繕った。
「それに、須藤くんにあんなに数学教えてもらったのに、あんまり手応え良くなかったし…。」
「そんなのねぇ!」
わたしのまえでよくなんとかかんとか、最後の方はよく聞き取れなかった。
定期考査前の土日に剣道の大会(学校単位での公式戦では無く、りっちゃんが個人で自主参加しただけだけど)が被ってしまったのに加え、テスト範囲を大幅に間違えたり、確かに今回のりっちゃんの定期考査は大変だったように見えた。
テスト前こそ騒ぐものの、こういうことは大抵人並み以上の結果をキープし続けるりっちゃんだ。
こんなのは本当に珍しい。
テスト前にあったあれこれで、思ってた以上にご乱心だったんだな、と察する。
項垂れるりっちゃんに私は囁いた。
「…でも、これから部活なんだから、久しぶりの渡辺くん…じゃない?」
顔を手で覆ったまま、ボンッと赤くなったりっちゃんを、私は見逃さなかった。
りっちゃんが、動かなくなる。
私は、笑いが堪えられなくなる。
ややあって、りっちゃんは目だけを覗かせて言った。
「…琴子だって二週間越しの須藤くんじゃん!」
ボンッと、ミイラ取りはミイラになった。
…こういう鋭さは、りっちゃんに適わないんだから。
後から後悔しても遅い。
「…こうやってお互い自爆するの…もうやめよう。」
「…うん。」
私達はピュア過ぎる自分を呪った。
りっちゃんは、パンッと自分の両頬を叩いた。
「よし!行く!」
「うん!」
私もりっちゃんに習って気合を注入する。
「じゃあ、いつもの所でね!」
「うん、また後で。」
私が手をあげると、りっちゃんも手を振って、ひらりと身を返した。
長い髪が、美しい軌道を描いて舞う。
やっぱり、いつも通り伸びたしゃんとした背筋に、私は嬉しくなった。
りっちゃんが角を曲がったのを確かめて、私は手を下ろす。
……ドキドキ、する。
胸の高鳴りはいつもの二割増で、『二週間越しの須藤くん』というワードが赤面させる。
……会いたい。
スクールバッグを担ぎ直して、後ろに振り向いた、
…その時、視界に入った窓の外で、雫が落ちた気がした。
……?
見上げた空は、夏を感じさせる見事な晴れ。
けれど、顔を下げると、水滴が量を増していた。
「……お天気雨。」
呟いていた。
珍しい。
ここ最近ずっと天気が崩れることなんて無く、今日だってこんな晴れているのに。
こんな不順な天気が今日のこの時間に限って。
…珍しいこともあるもんだな。
私は振り返って、今度こそあの場所へ向かい始めた。
今日はやけに"珍しい"を連呼してるな、なんて思いながら。