金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
ザアァァァァ……
耳の奥に雨の音が広がる。
あの雨の日が思い出される。
窓からは明るい陽が差し込んで、廊下が照り輝いている。
何度も胸を高鳴らせて歩いたこの、図書室までの一本道。
上手く力が入らない足で、踏みしめた。
口の中が乾いていく。
汗が浮かんできて、頭がぼうっとして。
ああ、近づいていく……。
心臓の上の拳を、握りしめた。
眩しさに目を細めながら、図書室の方へ目線を投げかけた。
目を疑った。
いつもは閉まっているはずの二重扉が、開いている。
とはいえ、別に換気したくなる時だってあるだろう。
…珍しいな。
その程度だ。
空いた扉の向こうには、カウンターに座る里見先生が見えた。
笑って誰かと話している。
それは、もう一つの人影。
ここからでも分かる。
今度は目を疑ったというか、思わず二度見した。
………須藤くん………?
私がいつもより早く来たわけでもない。
だから、須藤くんがあそこで話してるってことは、須藤くんが今日は少し遅く来たってことなのかな。
ざわざわざわ、と木々が揺れた。
…珍しい、な。
今日何回目か分からないその言葉は、やけにズシッと重みを持った。
あははは、と楽しそうな笑い声がここまで聞こえた。
本当はそこまで大きな声じゃないのに、私の耳が勝手にボリュームをあげているのかもしれない。
だって、知らない。
須藤くんて、里見先生とああやって話す仲だったんだ……?
妙な汗が、伝う。
いつもとは違う鼓動が鳴る。
なんだか、胸騒ぎがする。
おかしい。
何かが違う。
いつもと違う。
嫌な予感がする。
正体不明の不快感が、私の喉を少しずつ締めていく…。
須藤くんがしゃがんで、カウンターに腕を置いたみたいだった。
調度、里見先生の目線に合わせるように。
喉に何かがせり上がってくる感じがした。
…やだ。
…やめて、須藤くん。
しょうもない、灰色の、感情。
これは妬み?嫉み?憎み?
ただ、息苦しい。
足が震える。
手に力が入らない。
…生徒と先生の距離感には見えないなんて、私がおかしい?
里見先生が何か言ったようだった。
須藤くんは照れたように俯く。
鋭い痛みが、走る。
……他の人にそんな顔しないで。
本当に、何の権利があってそんなことを思っているのか。
須藤くんが、真面目な顔になった。
…だめ。
息が荒くなってくる。
…見ちゃいけない。
私の本能がそう告げる。
須藤くんは里見先生をじっと見つめている。
嫌だ知りたくない気付きたくない見たくない
なのに
目が、逸らせないーーーーーーー
「…好きなんだ。」
須藤くんの唇が、そう動いた。
この距離で、見えるはずない。
だけど、分かってしまった。
悲しい女の性?
絶対的な自信がある。
……ほら、だから見るなって言ったのに。
後頭部を、鈍器で思いっきり殴られた気がした。