金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
りっちゃんは照れを隠すように俯いて、また食べ始めた。
しばらくお互いに無言で食べて、りっちゃんが今度は私に話を振ってきた。
「…琴子さぁ。」
私は水筒を手に取って一口含む。
りっちゃんは、あっさりと言った。
「……もう、告白しちゃえば?」
思いっきり、吹き出しそうになった。
こ く は く ?
そそそそそそれって……
「……私が?」
「うん」
「……伝えるの?」
「うん」
「……好意を?」
「うん」
りっちゃんはしれっとした顔で咀嚼を続ける。
そ、そんなの……
「…………むむむむ無理だよ!」
私はブンブンと首を振った。
だって、向こうには好きな人がいるって分かってるのに!
「いやまぁ、それがどんなに大変なことかくらいは私だって分かってるよ。私だって出来ないもん。」
「じゃあっ……!」
「ただ」
荒ぶる私を、りっちゃんが制した。
「…ただ、もし付き合えたら、琴子は先週みたいな思いをしなくていいわけじゃん?
会いたいと思ったら、理由なんてなくたって、会える。
そういう肩書きが"彼女"なんだから。」
私はぐっと下唇をかんだ。
りっちゃんらしい、正論だ。
「…それは、私だって前に思ったことある。
けど、付き合うまで行かなくても…会えるだけで満足だし、今の関係で十分なの。」
そう、何かのテンプレートでもあるかのように、スラスラと私の口から言葉は出てきた。
まるで脳を経由していないから、自分の口で言ったことを、初めて自分の耳が聞き取って脳に伝える。
…今のままで十分…。
脳は無抵抗で事後承諾する。
そう、私、今のままで十分なんだ…。
「琴子それはさ。」
りっちゃんは、私をまっすぐ見据えた。
「甘え、だよ。」
私は目を見開いた。
衝撃が、そのまんま脳にぶつかった。
先週言われたことと、全く同じだ。
りっちゃんが言う。
「本当に今が満足なら、向こうに好きな人ができても、その人と付き合い出しても、それは甘んじて受け入れるべき。
けど琴子、それは嫌なわけじゃん。
ねぇ、こんな不安定な関係で、付き合ってるって名目も無いのに、ただずっと一緒にいれるなんて都合がいいこと、あると思う?」
りっちゃんの容赦の無い言葉が、私の胸の奥深くにまで届く。
「ハッキリ言って、琴子は告ることを怖がってるだけ。」
そうキッパリ断言した。
私は黙り込んだ。
と、りっちゃんが、はたと気付いた顔をした。
「…ご、ごめんまた説教くさくなっちゃって…。ただ、琴子には後悔してほしくなくて。」
…うん、分かってる。
りっちゃんの気持ちが伝わってくるから、私は全然嫌じゃないよ
そんな私の気持ちが分かったのか、りっちゃんは、これだけ、というように言った。
「…今のままでいいって言うのも、本当の気持ちとしてあるかもしれない。だけど、須藤くんが自分以外を見ているのは嫌っていう気持ちもあるんだよね?
だったら、二つを天秤にかけてみなよ。」
……そうだ。
どっちも嘘じゃない、私の本当の気持ち。
だけど、そう、大事なのはそれでもどちらかを選ばなければいけないとしたら、それぞれの気持ちの大きさ…。
りっちゃんがお弁当を食べ始めた。
「…無理なんかじゃないよ。」
最後に一言、サラッとそう言った。
"無理なんかじゃない"
その言葉に、ハッとする。
私は俯いたままお弁当のウィンナーを見つめていた。
私は、咄嗟に拒否して告白なんて無理だと決めつけた。
でも、本当は、無理なんかじゃない。
私が勝手に潰した選択肢は、私が勝手に潰していただけだ…。
そんな単純なことに、私はりっちゃんに言われて初めて気が付いたんだ。
「…とりあえずは明日から3日間定期考査だね。」
そんなこんなで忘れかけていたそれにも、私はりっちゃんに言われて初めて気が付いた。