金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
「琴子は.....自分じゃ思ってないかもしれないけど、私の憧れなんだよ...?」
私は目を瞬いた。
でも、そんなんじゃビクともしない、真っ直ぐな瞳。
...信じられないことに、どうやら、りっちゃんは本気で言っている様だ。
「私、琴子が思ってるような立派な人間じゃないよ。琴子の方が、全然偉い。
琴子、自分のいい所、挙げられる?沢山あるけど、一番いい所。」
微かに首を振った私を見て、りっちゃんは静かに涙を流した。
一筋の線が、太陽の陽を浴びてキラッと光る。
「...相手のことを、思いやれる所だよ。
自分より、優先してまで、相手のためにやれる所。私がずっと、尊敬してる所。
でも、それが、いつの間にか琴子にとって重荷になってたんだね。
そりゃそうだよ。ずっと私に譲ってきたんだから。
だから...恋をして、始めて、周りより優先してまでやりたいってことが出てきたことに動揺しちゃって、どうしたらいいか分からなくて、溜め込んで自分が悪いってことになっちゃったんでしょ?
違うじゃん!人間なんだもん、欲望くらいあって当然だよ!むしろ無いなんておかしいんだよ!
琴子は全然悪くないよ!普通なんだよ!」
言いながら、りっちゃんの瞳からは止まることなく涙が溢れてくる。
私も、もう、堪えきれなかった。
「...ただ...」
りっちゃんは、ぐいっと涙を拭った。
「...ただ、それを私に言ってくれなかったのは、私が悲しい。
琴子が自分のことを攻める必要なんてこれっぽっちもないけど、やっぱり、私は琴子に言って欲しかったんだよ。
だから、言って?次からは。私、どんなことでも聞くし、琴子の味方になるよ?今までだって、そうだったじゃん。
それから、もっと自分に自信持って。存在を知られたら...須藤くん、だっけ?…私のこと好きになっちゃうとかなんとか言ってたけど、そんなことないよ。
琴子は、いい所沢山あるよ。私は、沢山知ってる。だから、琴子が選んだ人なら、きっと琴子のいい所に気付いてくれるよ。
琴子、もっと、自分を認めてあげて。」
りっちゃんはもう一度涙を拭った。
もう、視界がぼやけて見えない。
ただ止めどなく湧き上がる感情と涙とが、私の頬を絶えず濡らしている。
鼻水をすすり上げて、でもすぐにまた感情は駆け上がってきて。
りっちゃんが、少し目線を落とした。
「...だから、何が言いたいかって、さ。私、ずっと琴子のこと大好きだから。
琴子がどんなに自分のことを嫌いになっちゃっても、私は大好きだから、苦しくなったら、何回でもいうから。
だから、私がいるってことは、忘れないでね?...聞くから、いつでも何でも言って、て...事なんだけど...。」
なんか恥ずかしくなってきた、とりっちゃんは笑った。
もう吸水仕切った私のカーディガンの両袖は信じられないくらい重くなっていた。
「...ごめんね、」
しゃくりあげながらそうこぼしたら
「ほらぁ、違うでしょ。」
って、りっちゃんが子供に注意するように言った。
「そうは言って欲しくないんだって。
...言うとしたら?」
温かいりっちゃんの、温かい答えが分かって、止める間もなく嗚咽が漏れた。
私は目をぎゅっとつぶる。
「.......ありがとう.......!」
「はい、よく出来ました!」
りっちゃんの胸に飛び込んだ私を、りっちゃんは驚いて受け止めた。
「泣き虫琴子ー」
りっちゃんも、そう笑いながら涙声だ。
まるでお母さんが子供をあやすように、りっちゃんは私の背中を撫でる。
それが、この上なく心地よくて、安心した。
私のことを誰よりも...本当に、自分自身よりも、想ってくれてる大切な存在に、私は心から感謝したんだ。