金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
放課後、最終チェックのため、例のトイレの洗面前を私達は占拠していた。
もちろん例のごとく人が来ないって分かってるから、ね。
最終チェックって言っても、皆が公共で使うトイレを占拠してるような...梅田さん系統の方々みたいに、ばっちりお化粧をするとかじゃなくて、ちょっと髪の毛を揃えてリップクリームを塗るくらいだ。
後は、お互いの恋愛相談の時間でもあったり。
りっちゃんの真似をして(というか指導のもと)作ってみた私の女子力ポーチを見て、りっちゃんが感慨深げにため息をつく。
「...分かってたことだけど、琴子は元がいいからすーぐ可愛くなっちゃうね。」
私はブンブンブンと首を降った。
「そんなことないよ!全然、特徴とか無くてどこにでもいる顔だし、そんな、りっちゃんに言われても...。」
すると、りっちゃんはやれやれと方をすくめる。
「琴子は本当に、自分じゃなんにも分かってない。
もちろん外見もそうだし、内面的にも、だよ。なんていうか...凄い、女の子らしくなった。」
私は目を瞬いた。
...それは、私も
「...私もりっちゃんに、そう思ってた。」
そう言うと、りっちゃんも目をパチクリして私を見た。
2人で驚いた顔のまま見つめあってるなんて、なんだか、おかしくなっちゃって。
私達は声を上げて笑った。
私はりっちゃんに言う。
「...恋してるりっちゃんって、いつもと違って、特別女の子らしくって可愛く見えたの。」
もちろん、りっちゃんは素でも可愛いんだけど、とこれはお世辞抜きで思う。
りっちゃんは私の言葉に相槌を打った。
「それそれ。私も琴子に思ってた。話聞いてれば、普段の琴子じゃ信じられないこと言うしやるし、なんか堂々として、」
ちろっとこっちに目線をやるりっちゃんは、少し、さみしそうな目をしていて。
「...琴子、もう私が傍にいなくても大丈夫なんじゃん、て。」
須藤くんにヤキモチ妬いちゃうくらいだよ、なんて笑うりっちゃん。
...あ。
この時、お昼のあの違和感の正体が、やっと分かった気がした。
私、りっちゃんを不安にさせてた...?
この時やっと、私は、ずっと自分のことしか見れてなかったと気付いたんだ。
...でも、でもね、りっちゃん
「...私がそうなれたのは、りっちゃんに支えてきてもらったからだよ。」
私ははっきりと、そう言った。
こうやって、自分の思ってたことを言えるようになったのはもちろん、友達の存在の嬉しさを教えてくれたのも、人を思いやる大切さを教えてくれたのも、りっちゃんだって。
「それに、前よりは1人でも頑張れるようになれたかもしれないけど、それでも私、まだまだだし...。」
けど、もうりっちゃんに頼ってばっかりじゃなくて、自分の足で進まなくちゃ、っていうのも分かってる。
だったら、お互いに相手の足りないところを、補い合って成長出来ればいいね。
...だから
「...これからも、傍にいてくれる?」
私がそう言うと、りっちゃんは
「琴子も言うようになったじゃんか~」
って、体を小突いてきた。
でも、さっきのさみしそうな笑顔とは違う、いつものりっちゃんの笑顔だ。
あははは、って声を出してまた2人で笑い合う。
...ねぇりっちゃん、まずはこうやって、その時その時2人の不安を失くしていければいいんじゃないかって、思うんだ。
開いた窓からは、大分夏の陽気に近づいた太陽が、私達を明るく照らしていた。
...それにしても、私も恋する乙女に近づけてるなら、嬉しい限りですね...。