金曜日の恋奏曲(ラプソディ)



目を瞑って、鼻から軽く息を吹き出した。



ドアノブには力なく右手がかけられている。



…例え何回目だって、緊張する。



私は心を決めると、ぐっと右手に力を入れた。



あの、軋んだ音がたった。



晴れた日の陽光が、眩しく窓からさしていた。



思いがけず、いつもとは違う光の量に目を細めて、それから、気付いた。



須藤くん…寝てる…?



机に突っ伏した背中が、静かな寝息とともに上下している。



…心拍数が、あがった。



って私、起きてたら起きてたでドキドキするくせに。



…要するに、どんな様子でも須藤くんにはドキドキしてしまうってことだけど。



足音をたてないように、いつも以上に慎重に足を忍ばせて、いつもの席に進んだ。



そして、迷った。



ど、どうしよう…。



…今日も、一緒に勉強するかな?



ていうか、私としてはもちろんしたいんだけど、いや本当に下心抜きでも、お願いしたいところなんだけど…。



だとしたら、須藤くんの席の近くに座った方がいいのかな?という、迷い。



前は須藤くんが私の方に来てくれて、気を遣わせちゃって、次は私が、て決めてたから。



私は躊躇った挙句、須藤くんの席の向かい側、いつも私が座る席の、通路を挟んで右の席に、座ることにした。



音がたたないようにそっと、椅子を引く。



いつも見慣れたあの世界とは違う視界に、妙な緊張感が、高まる。



1つ隣に来ただけなのに、こんなにも違うのかと思う。



本を机に、荷物を隣の席において、いつもと同じくプリントと筆記用具を出して…机に広げようとして、ドキッとした。





…須藤くんは思ったよりも、私側に来ている。




色々と教科書やらノートやら単語帳やらを広げて、その上に突っ伏しているもんだから、かなりの場所を占領していることになる。



あの、別に文句とかじゃなくて、こっちが勝手にこっちに来たんだから、それは本当に。



じゃなくて、一気に煽られるように、額に汗が浮いてきた。



私は一旦、プリント類を広げずに、右の方へ置いた。




須藤くんの顔の下には、長文読解の英語の参考書が開いてあって、私は思わず笑ってしまった。



これを読んで、寝てしまったんだろう。




…なんて、可愛いの。





寝息が、私の耳に届く。





それだけ近いってことだ。





絶妙なウェーブを描いた髪が、呼吸に合わせて動いている。





顔は、腕に埋めている。






…髪の毛と、紺の薄手のベストの間に少し覗いた首筋だけが、妙に白く視線を奪って、浮いた血管に、逸らせなくなって。






ドキドキして緊張するのに、私はどこか、感覚が麻痺してしまったように、見とれていた。
< 75 / 130 >

この作品をシェア

pagetop