金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
目を瞑って、鼻から軽く息を吹き出した。
ドアノブには力なく右手がかけられている。
…例え何回目だって、緊張する。
私は心を決めると、ぐっと右手に力を入れた。
あの、軋んだ音がたった。
晴れた日の陽光が、眩しく窓からさしていた。
思いがけず、いつもとは違う光の量に目を細めて、それから、気付いた。
須藤くん…寝てる…?
机に突っ伏した背中が、静かな寝息とともに上下している。
…心拍数が、あがった。
って私、起きてたら起きてたでドキドキするくせに。
…要するに、どんな様子でも須藤くんにはドキドキしてしまうってことだけど。
足音をたてないように、いつも以上に慎重に足を忍ばせて、いつもの席に進んだ。
そして、迷った。
ど、どうしよう…。
…今日も、一緒に勉強するかな?
ていうか、私としてはもちろんしたいんだけど、いや本当に下心抜きでも、お願いしたいところなんだけど…。
だとしたら、須藤くんの席の近くに座った方がいいのかな?という、迷い。
前は須藤くんが私の方に来てくれて、気を遣わせちゃって、次は私が、て決めてたから。
私は躊躇った挙句、須藤くんの席の向かい側、いつも私が座る席の、通路を挟んで右の席に、座ることにした。
音がたたないようにそっと、椅子を引く。
いつも見慣れたあの世界とは違う視界に、妙な緊張感が、高まる。
1つ隣に来ただけなのに、こんなにも違うのかと思う。
本を机に、荷物を隣の席において、いつもと同じくプリントと筆記用具を出して…机に広げようとして、ドキッとした。
…須藤くんは思ったよりも、私側に来ている。
色々と教科書やらノートやら単語帳やらを広げて、その上に突っ伏しているもんだから、かなりの場所を占領していることになる。
あの、別に文句とかじゃなくて、こっちが勝手にこっちに来たんだから、それは本当に。
じゃなくて、一気に煽られるように、額に汗が浮いてきた。
私は一旦、プリント類を広げずに、右の方へ置いた。
須藤くんの顔の下には、長文読解の英語の参考書が開いてあって、私は思わず笑ってしまった。
これを読んで、寝てしまったんだろう。
…なんて、可愛いの。
寝息が、私の耳に届く。
それだけ近いってことだ。
絶妙なウェーブを描いた髪が、呼吸に合わせて動いている。
顔は、腕に埋めている。
…髪の毛と、紺の薄手のベストの間に少し覗いた首筋だけが、妙に白く視線を奪って、浮いた血管に、逸らせなくなって。
ドキドキして緊張するのに、私はどこか、感覚が麻痺してしまったように、見とれていた。