金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
胸が、これまでになく苦しくなった。
搾られるように、長く、ぎゅーーっっと。
私は気付いたら、自分の胸のところに握りこぶしを作っていた。
「…ん……。」
須藤くんが身じろいて、髪が一房はらりと流れ落ちる。
突然、触れたいような衝動にかられた。
トクン、と、胸がなる。
須藤くんしか、見えなくなる。
…この黒髪に、触れたい…。
熱に浮かされたように、私は手を伸ばした。
…大丈夫、ぐっすり寝てるから…ちょっとだけ…。
心の中で、そう言い訳しながら。
誰にだ。
きっと、私の中の、弱々しくも止めようとした私にだ。
指先が、そっと、須藤くんの毛先に触れた。
思わず、手がピクッと動く。
そこから、躊躇いがちに、頭の方へ進んでいく。
わっ……。
もふ、もふ…と私は軽く手を動かした。
なんか………。
なんか、フワフワしてるのに、芯はあるっていうか…なんか……柔らかくはないっていうか…
無意識のうちに、指先に髪の毛を巻き付けるように、私は手を動かしていた。
…男の人の、髪の毛だ…。
恥ずかしいという意識は、この時の私には無かった。
単純な探究心に突き動かされていたから…。
違和感を感じるのか、時折首をもぞもぞと動かす須藤くんを、愛おしく感じたくらい。
あちこちに向いた髪の毛が、私の手のひらをくすぐる感触。
自然と頬が緩んでいくのが分かる。
傍から見たら、完全に危ない人の行動だ。
なんて、あとから考えれば思いつくことなのだけれど。
外にくるりんと跳ねた襟足が、私の目にとらえられる。
導かれるように、つつつ…と手がそちらの方に引っ張られていく。
気が付いたら、腰を上げて須藤くんの方に大分乗り出すような体制になっていた。
でも、そんなことを気にはしなかった。
内側から、ピンク色の感情が、どんどん溢れ出てくる。
襟足と、その先にあるのは、白く眩しい首筋…。
…だって、手が、勝手に進んでいくんだ…。
今度こそ誰にかも分からぬ言い訳をしながら。
スベスベした肌を、手で撫でながら。
何かを確かめるように、往復しながら。
首筋にかぶりつきたい吸血鬼の心理ってこんな感じなのかもしれない…と、そこまで思った時、私の伸ばした右手の下から声がした。
「………はーい、そこまでです。」
一瞬、なんだか分からなくて硬直した。
掠れた小さな呟きのようなそのセリフが、耳の奥で繰り返される。
声がした方に目を向けると、うっすらと開いた瞳が流し目気味に私を見ていた。
いや、きっと寝ていたせいに決まってるけど、分かってるけど…少し紅潮したようなその頬に。
ーーーーーーー私、今何してたっっっ!!??
私は絶叫して、そこから飛び退いた。