ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました

(三)

久々の町に観光でもしようかと予定していたことをもみ消す、夜の時刻。

ほのかな街灯の明かりが石造りのシックな景観を照らすが、やはり暗くては見応えがない。

「うわぁ、何だか教会新しくなってますね」

だというのに、サクスくんに案内された場所は暗がりでも神々しく思えるほど綺麗なものだった。

前に来たときから一年ほどか。あの時は、少し朽ちた建物だと別段目にも止めなかったのに、今では足すらも止めてしまう。

汚れなき白に、青い屋根。晴天を見上げて人々が綺麗と言える色合いは、暗がりでも同じ。今は沈黙している鐘楼も、きっと明け方になれば町の人々を活気づける目覚ましとして一役担うはず。

「ちょうど、3ヶ月前に出来たんすよ。町の人からの支援で立派な建物になったんす」

「それだけ人望が厚い方なのですね」

「ええっと、はい。まあ」

煮え切らない返事をされた矢先、教会の扉が開いた。後に、サクスくんの顔面にモップがストレート投球されるーーって。

「サクスくん!?」

「この孤児がっ!掃除も出来ないとはどういったことだ!代わりに僕がしてやったのだぞ!見ろっ、このモップの邪悪さを!」

20代後半と思しき眼鏡の男性が司祭さまかと思ったが、服装はサクスくんと同じ法衣だった。修道士の一人なのだろう。

邪悪なるモップを受けた顔面は真っ黒になっていた。す、凄い、中を見ずともピカピカであるのが察せるほどの邪悪さだ。

「すみません、先輩」

「懺悔すれば神は許すが、僕は許さんぞ!今、何時だと思っている!こんな暗がりまで出歩くとは、ふんっ、やはり孤児は不良であるな!聖職者など辞めてしまえ!」

さすがに、口出ししそうになってしまった。

けれど、察したサクスくんが片手で待ったする。いいの?とアイコンタクトすれば、頷いた。

「大方、また森に入ったのであろう!獣臭いわ!不良な孤児にお似合いな匂いであるな!さっさと風呂に入るが良い!あまりにも臭いから、しっかりと湯船につかり、ローズマリーの香りがするお風呂で体の芯からじわじわと浄化されよ!後に、なぜこんな時間まで掃除をサボっていたことに関して一から説明してもらおうか!おっと、万年飢餓であるお前のことだ、空腹で不出来な頭から発せられる言葉は崇高なる僕の頭では解読不可であろうなぁ。どうせ、ワンとしか聞こえぬが、神は仰せられた、犬畜生にも慈悲をと。余り物のイッカク肉のソテーがあるから恵んでやろう。ついで、残飯処理に熟した木苺で作ったジャムたっぷりのホットケーキをその空っぽの胃に押し込むがいい!はっ、もっとも、貴様に人様の味が分かるか甚だ疑問だがな。分かるまで食べ続けよ、万年飢餓!その胃袋がはちきれるまでなぁ!

そうして最後は、僕が浄化してやったふかふかのお布団に包まれ、永劫の眠りにつくが良い!ははっ、寝坊という人として底辺なことをする貴様が目に見えるようだ!貴様に相応しい末路よ、ふははは!」

「めっちゃいい人なんす。ちなみにモップは、こんな遅くまで森にいるとは心配かけさせてアタックっす」

「うん。いい人ですね」

和むわぁ。

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