ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました

「ぬうっ!き、きき、貴様っ!女連れだとおぉ!」

「あ、はい。隣村から来たフィーナさんっす。もう暗いし、この町に泊まった方がいいかと思って、教会に。フィーさん、この人はオレの先輩のサヌッテさんっす」

「とことん落ちたなぁ、不良が!神聖なる教会に女を連れ込むとは!な、なんて汚らわしいっ!やはり貴様は先に懺悔室行きだ!貴様の口車ごときに誘われた女には真っ先に浄化が必要であろう!早く中に入れ!教会内に邪悪な風が流れ込む!くっ、貴様だけでなく邪なる者がまた増えるとはっ。ふっ、だが聖職者として完璧な僕に抜かりはない!どんな悪も、たちどころに永劫の眠りにつかせてやろうぞ!一日かかろうが、二日かかろうが、貴様の邪悪を払ってくれる!」

「一番風呂どうぞ。寒くなってきたから早く中へ。お泊まりするなら歓迎しますし、好きなだけ滞在して下さい。っす」

「いい人だー」

そんないい人に連れられ教会内部へ。
中も再建したのか、壁だけでなく左右対照に並べられた椅子すらも真新しい。赤い絨毯が敷かれた身廊の先、女神像に辿り着く。

「見るからに学がない貴様らには祈り方すらも分からないであろう。せいぜい、この神々しさを目に焼きつけ、涙すると良い!女神像だけでなく、この教会全てが貴様を打ちのめすであろう!」

「特に決まった祈り方はないから、かしこまらなくてもいいのですよ。教会の中、好きなように見学して下さい。っす」

「むしろ、いい人さんの優しさに涙しそうなのですが」

正直、ここに泊まらせてもらうのだから、祈りの一つでもしなきゃと思ったけど、気にしなくていいとのこと。心で軽く、お邪魔しますと言う。

「あの、サクスくん」

「はい?」

「同じ修道士なら、いい人さんにも彼が見えるのでは?」

「いや、見えていないみたいっすね。あ、先輩が見えないからって、聖職者として劣ってるとかないっすからね。先輩、本気でいい人なんすから。オレがーーおかしいだけなんす」

含みある言い方を聞き返す前に、いい人さんから、貴様の牢獄はここだ!と案内された。

「教会と宿屋を兼業しているので?」

質素な趣の部屋だけど、中はホコリ一つないほど清潔だった。

「ハッ、世の中、邪悪な者が多いからな。そんな奴らを町に野放しに出来るか!ここで監視させてもらう。外出したい時は、僕か、僕の髪の毛一本ほどの役にも立たないサクスを同伴しろ。僕と司祭さまが築いたこの平和なる町で、己の愚かさを噛み締めるが良い!貴様ごときの悪、何度でも滅してくれるわ!」

「旅人さんの疲れを癒やしたいし、ついで、町の中を案内して、何度でもこの町に遊びに来てもらいたいってな先輩のご意向で、教会再建の時に寝泊まり出来る場所も作ったんす。もっとも、お客様用のは、一部屋しかないんすけど」

「何度でも遊びに来ますので、また泊めて下さい」

「ははっ、自ら滅せられたいか!悪め、望むところだ!手始めに、この先にある浴室にて浄化されてこい!悪がために常日頃から抜かりない僕が用意したシルクの寝間着に着替えたのち、虫らしく部屋に閉じこもっていろ。僕が来るまで部屋の隅で膝をかかえているがいい!」

「浴室はつきあたりの扉で、着替えはこちらです。夕食の支度が出来るまで、部屋の隅にあるベッドで休まれて下さい。出来たら呼びに来ますから。っす」

「見ず知らずの私に、何から何まで!ありがとうございます!」

「笑止っ、悪を滅するのが聖職者の勤めなり!」

「礼など要りません。人として、当たり前のことをしているまでですから。っす」

いい人は、どこまでもいい人だった。
これは断る方が悪いというものだろう。

「あ、サクスくん」

女性の入浴に気を使ったいい人さんに、耳を引っ張られる彼を引き止める。

「あの、クラビスさんは……」

「フィーさんの右肩あたりで、男たるオレたちを凄まじく威嚇してるっすよ」

苦笑いで答えられた、聞きたい言葉。

右肩と言われ、肩に手を置いてみる。
そういえば、彼は後ろから抱きついてくることが多かったか。

「今も、そうしてくれているのですね」
 
私の名前を呼びながら。




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