ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました

「あ、いえ、無傷っす」

「司祭さまが身を呈してまで町の人のために、モンスターに立ち向かう感動シーンまで想像したのだけど、どうしてくれますか」

「モンスターが襲ってきたのは本当っすよ。ミサーー司祭さまは美声で、毎週末に賛美歌を披露するんすけど、その最中にクモのモンスターが声を奪っていったんすよ」

「声を?」

人が魔法を使えるように、モンスターも特殊な技を使うけど、声を盗むだなんて。

「なぜ、モンスターがそんなことを」

「分からないっすけど。あのモンスターが奪ったのは間違いないです。奪ったあと、自警団が来る前に森に逃げ込んだもんで、以来、司祭さまは話すことが出来なくなりました」

だから筆談をと、紙を見る。

「なるほど。声を奪われてなおも、町の人を救うために司祭さまは果敢にもモンスターに立ち向かって」

「すみません、フィーさん。感動シーンに水差しますが、本当に無傷です。どこも悪いところないんすけど、その。美声を失ったのと同時にーー」

「まさか、別の何かも失って」

「司祭さまの人気も失われました。主に町娘の支持率が」

「この町でしか使われない特殊な暗号(言葉)が使われてますか?」

「そのままの意味です。それはもう、聞くもの全てを魅力する美声だったもので、50代になろうが若い娘からちやほやされるほど。毎週末のミサはそれが如実に分かる時なんすけど、先週のミサじゃ、司祭さまの賛美歌が聞けないとあって、町娘からブーイング。美声あったからこそ、顔面偏差値も美化され底上げされていたのに、これではただのおっさんでないかと言われたもんで、ショックを受けた司祭さまはこんなことに」

おっさんの単語に、司祭さまが吐血した。

「危篤原因、まさかの精神!?」

「言葉は時として凶器にもなると、司祭さまは言ってたっす」

「危篤になるほどの言葉責めを、むしろ聞いてみたいものなのですがっ」

「司祭さまはガラスのハートなんすよ」 

「傷つきやすさ折り紙付き!?」

「モンスターが声を奪わなければ、司祭さまは今でも娘たちに人気の歌手として活躍出来ていたのに。ちょっと、クラビスさん!下らない話すぎて、眠くなってきたとか言わないでほしいっす!本人にとっては大きな問題ですから!今までトップスターに等しい扱いを受けていたのに、たった一つの出来事で奈落にーー何の取り柄もないおっさんに成り下がったつらさを、理解してあげてほしいっす!」

司祭さまの呼吸が止まった。

「司祭さまがああぁ!」

「司祭さまダンディーっす!美声なくても、男前っす!」

一命を取り留めた。

「……、これ、ほめ続ければ元に戻るのでは?」

「例え一時戻ったとしても、町娘たちの反応あれば逆戻りっすよ。根本的なことを解決しなければ」

それがモンスターから声を取り戻すことか。

「それで、本題っす」

改まるサクスくんが、私に向き直る。

空気が読めれば、サクスくんが何を言いたいか聞かずとも分かる。

司祭さまの声を、モンスターから取り返したい。力を貸してほしい。

真剣な眼差しが物語り、協力したいと口に出しそうになったが。

「私では……」

役に立てない。
自身の力量を知らないわけじゃない。モンスター討伐は、本来自警団や騎士団の役目。炎一つしか産み出せない私にいったい何が出きるのか。

「協力して、くれませんか?」

「……、役に立てないのですよ。でも、役に立てないなりに、何か出来ることはありませんか」

出来ないくせに、しゃしゃり出る。
分からないくせに、何かをやろうとする。


彼から、叱咤でも受けそうなものだった。
もはや恒例行事。後先考えない猪突猛進タイプは、とりあえずイエスと返事してしまう。

困っている人を無視出来ないとした理由で。

協力すると言った返事に、サクスくんの顔が明るくなる。だったらと、先の話をする前ーー外から悲鳴が上がった。

私は、何事かと焦るが。
サクスくんは、「くっ、また!」と部屋を出る。

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