ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました
「す、すみません、フィーさんは見えてないってのに。こんな話されても、分かんないんのに、気味悪いっすよね」
「え?ふよふよ浮いているって言うから、ゲノゲさんみたいなのを想像したのですが」
“分からなくはない”と、返せば、そうじゃなくてと訂正される。
「“オレ”のことっすよ」
「サクスくんの?」
「あー、いいっす。先輩や司祭さま並みの反応で、理解しました」
そういう人なんすね、とまとめられてしまった。
「話戻しますけど、明確な殺意なきゃ対象に触れられないみたいっすから、フィーさんに抱きつけないみたいっすね」
「く、クラビスさんの、とーへんぼく」
「悪口言っても殺意買えませんって。むしろ、初めて罵られたことに歓喜しているみたいっす」
逆効果だった。
効果なしでも、宙を見るサクスくんの瞳は、感心しているそれとなる。
「感情あるってのも、凄いっすね。マジでクラビスさん、特別すぎやしませんか?」
「クラビスさん、生前からチート属性でしたから」
「恋人に向かってチート言うのはどうかと……。格好から魔法使いかと思ってましたが。騎士団の連中も、“夜空”って呼称で呼んでましたし」
「彼はよく、雷を落とすのが好きでしたね。余りにも怒り狂ったときには、大地を揺るがしていました」
「は!?雷ってーー空に関する魔法を使えるものはこの大陸に片手で数えるほどしかいないし、大地を揺るがすなんて神話の世界でしか聞いたことないっすけど」
「チートなんで、何でもありな人でした」
「冗談って訳じゃないんすか……。でも、そっか。強い魔法使いーー“夜空”の幽霊」
一人ごちるサクスくん。ややあって、聞いてほしい話があるという。
「その……、司祭さまに関してのことなんすが」
そういえば、司祭さまの姿を見ていない。
泊まるからには挨拶したいのだけど、重々しい雰囲気のサクスくんでそういった場合ではないことが伝わった。
「司祭さまが、どうかされたので?」
「来てください。見てもらった方が、早いっす」
言われるがままに連れてこられた部屋。サクスくんがノックするも返事はなく、待つこともないのか扉が開かれる。
中は私が案内された部屋と同じ造り。最低限の家具しかない場所に、男性が横になっていた。
ベッド上だ、寝ているのかと足音を小さくする。起こしてはいけないのだけど、サクスくんが構わずベッド脇まで進むのでそれに習うしかない。
「……、メモ?」
ベッド脇に置かれた机にあったペンと紙。メモとは後に使うからこそ書かれるわけだけど、虫が這うように書かれた文字は『迷惑をかける』『すまないね』『もう、いいんだ』と要領を得ないものばかりだった。
それを書いたであろう男性は、私たちがそばによっても目を開けることはない。
寝ている、と思った。それが間違いであるのは顔色を見て判断した。
「しん、で」
「いえ、生きてるっす。かろうじて」
肌色とは程遠い、血の気がない顔は死体を連想させたが、ひゅーひゅーと浅く呼吸をしていることからまだ生きていると知る。
けれど、サクスくんが言うとおりに、かろうじてだ。
あまりにも苦しそうな様子に、こちらの心臓が止まりそうなほど焦燥してしまう。
「お医者さまはっ」
「駄目なんす。医者にも治せなくて……」
奥歯を噛み締めるように、サクスくんは言う。
「二週間前のことっす。毎週末に開かれるミサの最中に、モンスターが襲ってきて」
「そんな……」
人が多い町にまでモンスターがやってくるのは珍しいが、逆を言えば人を恐れずに町にやってこれるほど強大なモンスターだったのだろう。
「オレや先輩が町の人たちを逃がしている間に、司祭さまは……」
「モンスターに襲われ、生死を彷徨うほどの怪我をなさったのですね」