あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 一瞬だけ私を見た中垣先輩は視線をまたパソコンの画面に戻す。話は聞いてくれるけど、指を止めるつもりはない。でも、こんなことはいつものことなので私も気にならない。


「フランス留学は私が行きます」


 私がそういうと、中垣先輩は指を止めて私に鋭い視線を投げる。その視線の鋭さはいつも以上に厳しさを感じ、蛇に睨まれた蛙のように身体が強張る気がした。


「何を言っているんだ。坂上は自分の幸せを考えろと言っただろ」


 中垣先輩の厳しい口調と言葉は私ことを思ってだと分かる。私の恋心を知っているから…。でも、中垣先輩のお祖母さんに何かあったら私は一生悔やむことになるだろう。だから自分のためにも引けないと思った。


「私も悩みに悩んで決めたことです。私が行きます」


「小林とはどうする。二年だぞ。遠距離恋愛はそんなに甘いものじゃない」


 遠距離恋愛に不安がないとはいえない。でも、この指輪に込められた小林さんの思いは嘘じゃない。小林さんが考えて決めた答えはそんなに軽いものじゃないと思うから私は小林さんを信じたい。


「考え直せ。その方がお前のためだ。仕事はここでも出来る。フランスへは俺が行く」


 その言葉に私は首を振った。

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