あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「中垣先輩はここに残って、私がフランスから帰ってくるまで、ここで研究を進めておいてください。私も研究員です。新しい世界で新しい研究に携わりたいとも思います。これは中垣先輩のためではありません。私が自分の為に行くのです」


 私の言葉を聞いていた中垣先輩はフッと息を吐き、私を見つめると珍しく微笑んだ。こんな微笑みを浮かべることが出来るなんて…。


「後悔はするなよ」


「勿論です。後悔をするくらいなら最初からこんな結論は出しません。研究もこのような機会を貰えたのですから頑張ります」


「坂上の気持ちは分かった。でも、所長に言う前にもう一度考えてからにした方がいい。所長に今度言ったら取り消しは効かないからな。所長は午前中の間は支社に行っているから帰ってくるまでに考えて決めろ。坂上の気持ちが変わっても俺はいい。俺のことも、祖母も何も考えないで、自分の気持ちを一番に考えろ。そうしないと、フランスに行ってもいい仕事は出来ない」


「わかりました」


「じゃ、早速だが、昨日の研究結果のデータの検証を頼む」

「はい」

 それだけいうと、中垣先輩は仕事に戻る。私も荷物を置いてからパソコンの電源を入れ、椅子に座るとフッと力が抜けるのを感じた。私は自分が思う以上に緊張していたようだった。中垣先輩は何も変わらない。


 所長が支社から帰ってきたのは午後の二時を過ぎた頃のことで、私が中垣先輩の代わりにフランスに留学したいと言うと、一度、『本当に大丈夫ですか』と言われた。そして私は所長に向かって言ったのだった。


「頑張ってくるので私に行かせてください」と。
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