あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「でも、もう少し」


「俺に電源が落とされたいらしいな」


 私の言葉を遮るのはさっきよりかなり低くなった中垣先輩の声だった。その声は絶対的な力を私に発揮する。中垣先輩の言葉はこの研究室では絶対で私はキーボードの上からパッと手を放してすぐに保存した。今までの努力が消えるのは困る。中垣先輩の言葉には嘘偽りなんかなくて、本気でパソコンの電源を落とすことくらいはするだろう。


 消えてしまったデータは自分でもう一度すればいいと思うくらいにアッサリとするだろう。



「帰ります」


「ああ。お疲れ」


 私には帰れというけど中垣先輩はまだ研究を続けるのだろう。私の中ではフランスに行くまでに形として残しておきたいという気持ちもある。中途半端は嫌だと思う。それでも今は…中垣先輩の優しさをそのまま受ける。


 研究所を出て、まだ少し残った太陽の光を浴びて染まる研究所を見ながらそんなことを思った。


 フランス留学は決まったとはいえ、準備もまだしてないし、書類上だけの事だから何も始まってない。だから今は分からないけど、もう少ししたら、今日の中垣先輩の言葉を思い出すのかもしれない。


 強制ダウンという恐ろしい武器を見せながらの優しさを私はその時どう思うのだろうか?



 
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