あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 確かにそうなんだけど、こんな台詞を中垣先輩が言うとは思いもしなかった。真面目一辺倒の先輩だけど、最初会ったときに比べたら少しだけ変わったかもしれない。大学の時からだから一緒に過ごしたというか研究に費やした時間は膨大なもの。そして、静かなものだった。


 最初は何を考えているのか分からなかったし、今も分からない時はあるけど、一人の研究者として中垣先輩を心から尊敬している。そして、実は分かりにくいけど優しいということ。その優しさに気付いたのは私が東京の本社営業一課に転属してからのこと。


 色々な人と出会い、小林さんに恋をしてから私にも人を思う気持ちが少しは備わったのかもしれない。研究に全てを捧げて生きていくと誓った私は今、恋をしている。恋をする前は恋は仕事の障害になると本気で思っていた。でも、それは違う。


 障害ではなく一緒に乗り越えるために強さになる。今はそう思う。


 最後のコーヒーまで飲み終わった頃にはいつもなら研究に戻っている時間になっていた。中垣先輩は自分の時計を見て、フッと顔を緩めた。コーヒーを飲んで少し落ち着いたのか徐々に研究者としての顔を見せ始める。


 さっきまで、料理を食べ、ゆったりとしていた人とは違っている。


「研究室に戻ったら打ち込みだな」


「はい」

「最後まで気を抜くなよ」

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