あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 シャワーを浴びてから寝室でルームウエアに着替えるとホッと、気持ちが緩んだ。零れる吐息に肩の力が抜け、仕事モードの私から次第に普通の私に戻る気がする。普通の私というよりは小林さんと一緒に過ごしている私に戻った感じだ。


 大きめのソファに座ると、時計が目に入る。まだ、九時前…。普通なら研究所にいる時間だ。


「今日は残業よね。何時くらいに帰って来るのかな?」


 朝に聞いた小林さんのスケジュールを思いだしながらテレビのリモコンに手を伸ばす。プチンと音がして…特番らしいお笑い番組が目に飛び込んでくる。何が面白いのか分からないけど、それでも静寂な空間を払拭するだけの音は流してくれる。小林さんは仕事が忙しいのか食事も帰ってくる前に終わらせてくる。


 冷蔵庫の中にあるもので簡単に夜ご飯を終わらせた私は…寝るだけの状況のままだった。洗濯も何もかも終わらせてしまうと何もすることがなかった。


「何か読もうかな」



 寝るまでの間の時間を潰すために取り出したのは全部英語で書かれた研究誌だった。先日、ニューヨークの研究者の投稿した論文がとっても興味があり、ずっと読もうと思いながらも時間がなくて、伸び伸びになっていたものだった。



 リビングのソファに座り込むと今月出たばかりの研究誌を開く。論文は勿論英語で書かれているけど、とりあえず読むことは出来る。難しい専門用語は辞書を引きながら読み進める。画期的な論文だけど、一部難しく時間も掛かる。読むだけなら出来るけど、書かれた内容を噛み砕き自分の中で理解するのは難しい。
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