あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 ブブブブ……。

 
 真剣に読み込んでいた私を現実に引き戻したのは小林さんからのメールだった。


『まだ、仕事が終わらないから、先に寝てて。俺も帰って美羽ちゃんとゆっくりしたいよ』


 短いメールだけど、小林さんらしさが溢れていて…会いたくなってしまう。一緒にゆっくりしたいと思うのは私も一緒だった。先に寝ててと言われても寝るつもりはなくて、起きて待っているつもりだった。明日から週末までは休みなのだから、今日夜更かししても何も問題はない。


 でも、私が小林さんの仕事の邪魔をしてはいけないから、模範解答のメールを打つ。


『はい。先に寝ますね。おやすみなさい』


『おやすみ。美羽ちゃん』



 小林さんからの素早いメールの返信を見てから顔が緩みながらも研究誌に視線を移す。本格的に分かりにくい単語が増えてきて、読むのに時間が掛かる。小林さんが帰って来るまでの時間に私が読み終わることはないだろう。それでも、何かに必死になるのはいいと思う。


 小林さんはこのところ帰りが遅い。仕事が忙しいのもあるけど、それ以上に私との時間を作ろうとしてくれているみたいだった。


『美羽ちゃんと一緒に居るために休みを取る』


 申し訳ないと思いつつも嬉しさもあって…。それでも一日の終わりは小林さんの顔を見たいと思う。眠さがないとは言わないけど、それでも会いたい気持ちが深かった。



 小林さんが部屋に帰ってきたのはそれからかなりの時間が経ってからだった。

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