あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
第八章

フランスへ

 小林さんと一緒に過ごす毎日はとっても楽しいものだったけど、その中にこの幸せの終わりが確実に近づいているのを感じずにはいられなかった。時間は止まることなく刻む。楽しい時間ほど過ぎるのは早いというのをこんなにも身体で実感したのも初めてだった。


 時間が止まることなく刻む。


 それは私と小林さんの別れの時間も近づいていることに他ならない。その現実からどんなに目を逸らそうとしてもその現実からは逃げられない。私は気にしないつもりでも心のどこかにそんな思いを抱いていた。そんな私の揺らぎに小林さんは気付いているはずなのに、何も言わなかった。


 それはふとした瞬間に感じること。


 小林さんはただ、傍にいて、私が寂しいと心に過ぎった時にキュッと私の身体を抱き寄せる。言葉は何もないけど、『大丈夫だよ』と言っているかのようなその温もりに私は癒されていた。自分で決めたことだからその痛みにも自分で耐えないといけないのにそれは私の想像を遥かに超えた苦しさだった。


 甘く優しい時間を過ごすたびに私は時間を止めたい心境に駆られる。止めることなんか誰にも出来ないのに…。止めたいと心から思った。



「美羽」


 私の名前が甘く囁かれると、私の身体はキュッと心が鳴り、身体が小林さんの温もりを欲しがる。小林さんは手を伸ばす私にクスッと笑うと、綺麗な顔に真剣な色を滲ませる。時間を惜しんでいるのは小林さんも一緒のようで、愛は静かにそして、熱を持っていた。


 そっと髪を撫で、胸に抱き寄せられ。何度も甘いキスをしながら、静かにボタンが外されていく。抗うことなく私は自分の身体を委ねると…それは『愛される時間の始まり』。

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