あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 覚悟という言葉を何度も反芻するように私は自分の心に刻み込む。だけど、その覚悟さえも必要ないかのように小林さんは私をゆっくりと抱き寄せた。逞しい腕の感触を身体に感じながら窓の外を見つめていた。何も言葉は無いのに心は静かに伝わってくる。そう、小林さんの溢れんばかりの愛が私には伝わっている。


 私の思いも小林さんには届いていると思う。私のこの不安な気持ちも全て…。


 藍色の空に次第に白みを帯びていた空も明るい太陽の光が眩しさを増していく。こんなに朝が来るのを留めたいと思ったのは初めてだった。


「朝ごはんは味噌汁がいいな」


「分かりました。でも、少し時間が掛かりますよ」


「いいよ」


 そんなリクエストに今度はいつ会えるか分からないからかもしれないが、心の奥底に少しの痛みを感じ、泣きそうになるのを堪える。


「普通のでいいですか?」


 そんな言葉に小林さんが眩しい笑顔を向けると、私の心臓は素直ににドキッと飛び跳ねた。


「それがいい」


 そう言ってニッコリと笑いながら、小林さんはいつもの朝と同じように玄関から持ってきた新聞をリビングのソファに座ると読み始めたのだった。そんな小林さんを見ながら、私は朝食の準備を始めた。ご希望の味噌汁だけではなく冷蔵庫の中にあるものでいくつかのおかずも作っていく。


 幸せだと思った。


 小林さんの部屋で一緒に過ごした時間は短いものだったけど、楽し過ごせたと思う。男の人と一緒に住むということに躊躇しなかったわけではない。でも、一緒にいる意味をこの期間の間に知ったような気がする。
< 250 / 498 >

この作品をシェア

pagetop