あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 キャルさんはご機嫌にキッチンの方に行くと本格的なワイングラスを持ってきた。反対側の手には綺麗にスライスされたチーズが並んだお皿がある。ご機嫌なキャルさんはソファに座るとワイングラスを折戸さんの目の前に置き、チェストの上にあるカゴの中からワインオープナーを取ると折戸さんに渡したのだった。


 無言だったけど、『開けて』ってことなのだろう。折戸さんも何事もなかったかのようにワインを開け出した。


 折戸さんは器用にワインのコルクを抜くと、まずはキャルさんのグラスに深紫のワインをそっと注ぐ。それをキャルさんはクルクルと何回か回してからそっと口を付けた。空気を含ませるように回すキャルさんの姿は雑誌の一ページから出てきたかのようで、仕草が洗練されている。


 そして、ニッコリと笑った。


「美味しい。芳醇って感じね。じゃ、美羽の歓迎会を始めましょ。ようこそ、美羽。これからもよろしくね。では乾杯」


 キャルさんの声に合わせ、グラスを重ねると凛とした音が共鳴する。磨かれたグラスにはライトの光りも反射していて少しだけ緊張させる。ビールならともかくワインはそんなに慣れてない。


「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」


「こちらこそ」


 口にワインを含むとフワッと鼻に抜けるのは芳醇な葡萄の香り。舌に残る微かな苦みさえ美味しいと思ってしまった。もっと苦みとか渋みを感じるかと思ったけど、そうではなかった。


「本当に美味しいです。とっても飲みやすい」


「それはよかったよ」


 折戸さんも満足そうに自分のグラスに口を付けたのだった。

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