あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 小林さんは私の手に持つコンビニの袋に視線を投げるとフッと笑った。


「それ、夕ご飯?」


「はい。おにぎりとサラダです。普段なら研究所で食べるのですが、今日はまだ食べてなくて。作る気にもならなかったから、手抜きです」


「美羽ちゃん。悪いけど、我が儘言っていい?」

「え?」


 小林さんが我が儘なんて珍しくて、私はどんな我が儘でも聞いてあげたいと思った。でも、このタイミングで我が儘というと、このおにぎりが欲しいのかしら?それならそれでいいけど、小林さんがこれだけの量で足りるとは思えない。もう一度、コンビニの方に行く方がいいと思う。


「それ、明日の朝ごはんにしてよ。俺もまだ何も食べてないんだ。一緒に食べよう」


「え…。一緒にですか?それはいいですけど、何を食べますか?冷蔵庫の中には何もないので作るのは難しいです」


「わざわざ作らないでいいよ。美羽ちゃんも疲れているし、定番の焼き鳥で食べに行くのはどう?」


 私が頷くと小林さんはニッコリと微笑む。とっても嬉しそうに笑うので私も嬉しくなった。端正な顔で素敵なのにたまに零す無邪気な微笑みに私はドキドキしてしまう。何度も何度もドキドキして、その度に私は恋心を自覚するのだった。好きという気持ちは際限なく増え続けるのだろうか?いつかストップが掛かるのだろうか?



「でも、焼き鳥を食べに行ったら飲みたくなりません?」


 
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