あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 小林さんの視線はスッと逸らされて、窓の方を見ている。小林さんが逸らす理由は一つしかない。私のこのあられもない姿に他ならない。ボタンの掛け違いのシャツを着た私はどんな風に小林さんの目に映ったかと思うと、少しだけ落ち着いた赤みがポッと差す。


「ごめんなさい」


 胸元を掻き抱くと、小林さんに背中を向け、床にある自分の服を拾い上げたのだった。見苦しい自分が恥ずかしくて仕方なかった。


「謝ることじゃないよ。俺も男だし…まあ、色々とあって、さすがに昨日の今日で……着替えたらコンビニに行こうか」


 そういうと、小林さんはスッと立ち上がって寝室から出て行ってしまった。


 小林さんがリビングに行ってしまうとホッとした。さっきまでの妙な緊張が緩んでいく。昨日、この寝室に入った時に私はどうしても小林さんの一番近く、一番深いところまで行きたいと思う気持ち、愛しくて誰よりの好きだと思う気持ちから、小林さんの腕に飛び込んだ。


 初恋の人の腕の中で朝を迎えれたことに私は喜びを感じながらも一晩明けて少しだけ冷静になると恥ずかしさが込み上げてくる。だから、今、一人なのは自分の気持ちを整理するには大事な時間だったと思う。


 小林さんの部屋を見回すと、引っ越しの時に来た時よりも物は増えている。でも、生活感はあるものの、散らかっているという風ではなかった。


「とりあえず着替えようかな」


 私は自分の服を着て、小林さんから借りたシャツを畳んでベッドの上に置いてからリビングへのドアを開けたのだった。
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