あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 キャルに関しては仕事を全部引き継いだのに嫌な顔一つせずに私の顔を覗き込み、ニッコリと笑う。ちょっと意地悪な顔はする。チラッと小林さんを見て、もう一度微笑んだ。


「美羽。隣は空室だからと言って、あまり大きな声を出すと、夜は結構響くから気を付けてね。フランスではそんなに気にしないでいいけど、あの辺りは日本人がたくさん住んでいるからとりあえず忠告しておくね」


 大きな声?……。キャルの言っている意味が分かると、顔が熱くなる。ドキドキしてしまう。昨日はお互いに疲れていたから何もなかったけど、今晩は…あっても可笑しくない。そう思うと意識してしまう。キャルの言葉が不意に脳裏を掠めた。このタイミングで思い出す必要はないのに、思い出してしまうと意識してしまう。


「教えてくれてありがとう」


 真っ赤になる私の横で小林さんは爽やかに答えた。それがとっても面白かったらしく、キャルは周りに響くのではないかと思うくらいの大きな声を立てて笑い出したのだった。


「本当に翔の言ったとおりね。美羽のことが大好きで、その辺りは真っ直ぐすぎるから面白いって。でも、思ったよりも壁は薄いから」


「そう?おもしろいかな?普通だと思うよ。壁のことはありがとう」


 小林さんもそういうことが今晩ありますよって感じで話すから恥ずかしくて仕方ない。キャルにしてみれば当たり前の事なんだろうけど、私は慣れない。


「帰国前に一度飲みましょう。美味しいワインをご馳走する」


「楽しみにしています」

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