あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
第九章

また恋をする

 目を覚ましたのは私が先だった。カーテンから差し込む光は朝の清々しさは全くなく。昼の穏やかな光を感じた。小林さんは何も身に着けないまま、私の身体を抱き寄せていた。人肌の気持ちよさを感じながらも昨日の夜を思い出してしまうと、顔が染まる。


 結局、あのまま何度も肌を重ね、食事もしないでお互いを抱きしめあった。そして、夜が明け、空が白み始めた頃、私は目蓋を落としてしまったのだと思う。自分の全てを曝け出して迎えた朝。…昼は。恥ずかしさの余り、記憶から消去してしまいたい。


 何度も小林さんの唇から紡がれる優しくて身体を熱くさせる愛の言葉。それに応えてしまう私の心と身体。そっと身体を起こすと、するっとシーツが揺れた。それと同時に小林さんの腕に力が籠る。


「小林さん?」


 ベッドから降りて、先にシャワーを浴びようかと思った。でも、やめた。私はベッドに身体を沈めると、そのまま小林さんのゆっくりと腕の中に戻る。すると、小林さんは眠っているのに優しく私の身体を抱き寄せた。フワッと抱き寄せられ、髪に繊細な指が絡む。昨日の夜はあんなに激しく音を立てていた小林さんの心臓は…。今日はとっても穏やかに規則的な音を立てている。


 でも、私はやっぱりドキドキしすぎ。


「もう少し甘えます」


 そんな言葉を呟いてから、私も目を閉じた。あんなに寝たのに、私はまた緩々と眠りの中に落ちていく。小林さんの腕の中はあまりにも気持ちよく幸せで、ずっとこのまま時が止まればいいのにと心の底から思った。誰よりも傍に居て欲しくて、誰よりも傍に居たいと思う人。


 左手の指に綺麗な約束をくれた人。そして、いつか、その約束を私は現実のものになると信じている。温もりに包まれて、私は静かに目を閉じた。


 
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