あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 私の仕事も忙しいけど、小林さんの仕事もかなり忙しい。高見主任の静岡訪問から毎日残業が続いている。今でしか出来ない仕事もあるというけど、それにしても高見主任の仕事ぶりには感心してしまう。本社営業一課に居た時も凄いとは思ったけど、こんな風に静岡支社に臨店して、大きな隕石を落としていくのだから凄い。


 小林さんは慣れているだろうけど、静岡支社の人たちはいい刺激と思う。それは静岡研究所でも一緒だった。中垣先輩はいい意味で気合いが入っている。そんな大変な時期に私は甘えて小林さんを引き留めていたのだと思うと申し訳なさでいっぱいになる。キュッと握られた手の形にシャツの生地に皺が寄っているのがその証拠だった。


「そんなことないよ。俺、嬉しかったし」


「仕事ギリギリになりますね」


「それでもいい。美羽ちゃんと一緒にいて俺は幸せだった。仕事にも遅刻しないで行くし、仕事も頑張るよ。だから美羽ちゃんは気にすることはないよ」


 小林さんはベッドの上に座ったままの私を抱き寄せると、そっと、触れるだけのキスを落としてくる。急な小林さんの行動にドキッとしてしまい、目を見開いた私に小林さんは穏やかに微笑んだ。


「おはよう。美羽ちゃん」


「おはようございます。小林さん」


「名前で」


 小林さんは仕切り直しという風にニッコリと笑いながら、訂正を掛けてくる。


「おはようございます。蒼空さん」

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