あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
『可愛らしく頼まれたら』


 全く自分の中で記憶がないというのはこんな風にバツの悪いものなのだろうか?小林さんの口調からすると私は多分何かを小林さんに頼んだのだと思う。こうやって一緒にベッドに寝ているのだから、考えられるのは『帰らないで』とか『一緒に居て』とかだろう。


 でも、それは想像でしかなく、記憶がすっぽりと抜け落ちている私は何を言ったのか怖いけど気になって仕方なかった。


「そうなんですね」


 曖昧な言葉で誤魔化そうとする私を小林さんは少し意地悪な顔をして私の顔を覗き込む。そんなに見ないでと思いつつも、好きだなって思う私はまだ昨日の酔いが残っているのだろうか?


「覚えてないでしょ?」


 図星。まさにその通り。何も言えずにただコクンと頷く。



「美羽ちゃん。かなり酔ってたよ。俺もかなり酔っていたけど」


「ですよね。で、私は何を言ってました?」


「好きって何回も言われた」

「え?」


「それと『帰らないで』って言われた」


 私は背中に冷たいものが流れるのを感じた。何回もって何回くらいなんだろう。


 自分の記憶の無さに…。
 呆れてしまう。


「ごめんなさい」


「なんで謝るの?俺嬉しかったのに。美羽ちゃんが半分寝ているのに、うわごとのように『帰らないで』っていうから泊まらせて貰った」


「今日仕事なのに引き留めてしまってごめんなさい」

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