俺様御曹司と蜜恋契約
「ところで聞いたぞ、花ちゃん」
4人掛けのテーブル席に座っているお客さんに料理を運び終えると、カウンター席に座っている島田さんにまた声を掛けられた。
「聞いたって、何をですか?」
そう言って振り返れば、お酒が入ってほんのりと赤くなっている島田さんの顔が分かりやすいくらいにニタァっと緩められた。
「コレいるんだって?」
と、親指を立てる。
「コレ?」
それが何を指しているのか分からずに首を傾げると、
「花ちゃん。コレは彼氏って意味だよ」
教えてくれたのは島田さんの隣に座っている笹野さんだった。
ほっそりとした小柄な体格の笹野さんは私の位置からだと大柄な島田さんにすっぽりと隠れてしまって姿が見えない。顔をひょいと出して、人の良さそうな笑顔で私を見ている。
笹野さんは商店街にある『パティスリーSASANO』の店主で、父親と同じ歳の幼馴染だ。笹野さんの作る苺ショートケーキは絶品で、私の誕生日やクリスマスはいつも笹野さんのお店のケーキを買っている。
「か、彼氏ですか!?」
笹野さんから島田さんが立てている親指の意味を教えてもらった私は一気に動揺してしまう。そんな私を見て島田さんがケラケラと楽しそうに笑う。
「みっちゃんが嬉しそうに話してたぞ。花ちゃんがとうとう結婚相手を連れて来たって」
「結婚相手!?」
思わず大きな声が飛び出てしまい慌てて口をおさえた。
「花ちゃんと同じ歳の陽太と優子も今年中には結婚するって言うし。仲良し幼馴染3人とも年内にはゴールインってわけか」
「僕も今から楽しみだよ。3人のことは生まれたときからよく知ってるけど、もう結婚するような歳になったなんて感慨深いなぁ」
島田さんと笹野さんは2人で同時にビールをあおった。