俺様御曹司と蜜恋契約
「花ちゃんの結婚相手なかなかの男前なのよ」

今度は後ろから女性の高い声が聞こえてくる。

「ま、松田さん!?」

そこにいるのは商店街で理容室を営んでいる松田さんだ。ベリーショートの髪を金色に染めているというなかなかインパクトの強い50代半ばの女性。

「この前うちの店にカットに来た道子さんが嬉しそうに話していたわよ」

お母さん……!
おしゃべりなんだから。

「あっ、じゃあやっぱりあのときのあれはそういうことだったんだぁ」

おっとりとした口調で話すのは、松田さんと同じテーブルに座っている山波さんだ。商店街でクリーニング店を営む彼女は、お店の名前が入った青色のエプロンをつけたままうちの食堂に夕食を食べに来ていることに全く気が付いていない少し天然な40代後半の女性。

「あのときのあれってなになに?気になるんだけど」

興味津々といった感じの松田さんの言葉に山波さんがニコッと私に微笑みかける。

「言ってもいい~?花ちゃん」

「な、何をですか?」

ごくん、と唾を飲み込んだ。
いったい何を見られていたんだろう……。

不安な顔になる私とは対照的に山波さんは「うふふふ」と楽しそうに笑いながら口を開いた。

「いつだったかなぁ?夜の9時過ぎぐらいに森堂公園の前を通ったらね、若い男女がぎゅーって抱き合っていたのよ。誰だろ~?って思ってよく見たら女性の方はなんと花ちゃんだったわけ。男性は後姿しか見えなかったけど、スーツ姿のすらりと背の高い人だったわねぇ」

み、見られてた……。
それはきっとつまりあの日だ。

陽太と再会したあとに行った盛堂公園で泣いてしまった私を葉山社長が抱きしめてくれた、あのときだ。
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