俺様御曹司と蜜恋契約
その日のお昼休み。
すっきりとした青空の良い天気だったのでお弁当を会社の外で食べることにした。今日はおいなりさんをタッパーに詰めて持ってきていたので手でつまんで食べられる。
油揚げは前日に味を付けて煮込み、朝に酢飯を詰めただけ。それだけだと全体的に茶色のお弁当になってしまうので、家の冷蔵庫にあったブロッコリーと食堂の前日のあまりのイカを貰って中華味で炒めただけのおかずも一緒に持ってきた。
「ごちそうさまでした」
食べ終えて腕時計を確認すれば午後の始業開始時間までまだ少しだけ時間がある。もう少しここでゆっくりしていこうかな、と空に向かって両手を伸ばすと午前の仕事ですっかり凝り固まってしまった体をほぐした。
ちなみに今日は持田さんは会社の近くにあるお店にランチへ出かけている。ようやく目標だった3キロを落とすことができたのでサラダ生活も終わったらしく『今日は好きなものを食べるのよ』と張り切ってランチへ出かけていった。食べ過ぎてリバウンドしないといいけれど。
持田さんのことを心配しつつ制服のポケットからスマホを取り出す。
「……今日もこない、か」
母親の病院に付き添ってもらってから葉山社長とは一度も会っていない。もう1か月が経つけれど、電話もぱったりとなくなってしまった。
忙しいのかもしれない。
一緒にいるとたまに忘れそうになるけれどあの人は葉山グループという大企業の社長なのだから忙しくて当たり前。
でももしも別の理由だとしたら……。
「もう終わりってことかなぁ」
葉山社長とは『取引』で繋がっているだけの関係。商店街の再開発をやめてほしかったら俺の女になれ、なんて言われたけど私は彼の本当の恋人でもなんでもない。そういう取引の関係を今日まで続けてきただけ。
葉山社長が私に飽きたらこの関係だってきっと終わってしまう。
今までさんざん振り回されたのに、いざ会えなくなって電話もなくなると寂しいと思ってしまうのはどうしてだろう……。
「ようやく私の日常に戻れたんじゃん」
今までがおかしかったんだ。
葉山社長のマンションに食事を作りに行ったり一緒に出掛けたりしていた日々は本当の私の日常じゃない。
もともと普通に生活をしていたら葉山社長と出会うことなんてなかったし関わりだって持つことのなかった人。
葉山社長と会う前の穏やかな日々に戻っただけ。
「わっ。いつの間にかこんな時間だ」
ちらりと目に入った腕時計は午後の始業開始時間まであと5分を指していた。