俺様御曹司と蜜恋契約
すると持田さんがずいっと顔を私に近付けてくる。

「でも最後にひとつだけ聞かせて」

「何ですか?」

大好物のそぼろ弁当に箸を伸ばしそれを口へ運ぼうとしていた手を止めて私は持田さんを見つめた。

「葉山社長って女癖悪いって噂だけど。花、遊ばれているわけじゃないわよね?」

まわりには聞こえないようにひそひそと持田さんが話を続ける。

「ほら、前にも話したでしょ。葉山社長って本社の女性社員や他の女性とも体だけの関係が多いって」

「はい」

まだ取引をしたばかりの頃そういえば情報通の持田さんに葉山社長のことを教えてもらっていた。ここ最近、葉山社長と過ごしてみて思ったのはその噂が本物だということ。

サラダに手を付けながら持田さんが小さく息をはく。

「花と葉山社長との間にどんな事情があるのか知らないけど、花のことが心配なのよ。ほら、花ってば男慣れしてなさそうだし。葉山社長にいいように遊ばれてるんじゃないの?」

「……」

持田さんの言葉に私は持っていた箸を静かに置いた。

たしかにそうかもしれない。私は葉山社長に遊ばれている。いくら商店街を再開発から守りたかったからとはいえ、代わりに葉山社長の女になるなんて無茶な取引を受け入れてしまったから。

ほぼ無意識に「はぁ…」と深いため息をこぼしていた。するとそんな私の様子に持田さんはさらに心配そうな顔を見せる。

「やっぱり遊ばれてるんでしょ。体だけの関係なの?」

「えっ」

思わずハッと顔を上げてしまう。

「いえ。そういうことはまだ一度もありません」

正直にそう答えると持田さんが大きく目を見開ききょとんとした顔になる。

「そういうのじゃないの?あの葉山社長と一緒にいるのに何もされてないの?」

「……はい」

突然キスされたり襲われかけたりはしたけれどその先へはまだ踏み込んでいない。
< 95 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop