専務と心中!
言葉が出てこない。
どうしよう。
薫……。

「バイク、あきらめたわ。おっけー。誰もいない。……にほ、もういいよ?」

薫の声はちゃんと聞こえた。
けど私は動かなかった。
いや、動けなかった。

……既に半分、寝てたみたい。
揺れが、心地よくて……薫が守ってくれるって安心感も手伝って、結局、私はそのまま眠ってしまった。

目覚めたのは、翌朝。
薫のベッドの中……薫の腕枕……薫の瞳がすぐ目の前で私をじっと見つめていた。

「おはよう。よく寝たな。」
そう言って、薫が私の頬に唇を寄せた。

「……おはよう。……あれぇ……。」

思い出せない。
何で薫と寝てるんだっけ。

ぼーっとする頭を起こして、キョロキョロした。

「何時?会社、行かなきゃ……。」
「休み。寝とき。」

そう言って、薫は、グイッと私を抱き寄せた。

キャッ!

バランスを崩して、薫の胸にしがみついた。

「……薫……。」

不思議な感覚。
長年慣れ親しんだ薫の身体のはずなのに……まるで知らないヒトみたい。
これじゃない感が、いっぱい。

「……にお。」

薫の唇が、舌が、指が、私の肌を優しくなぞり、ざわつかせる。
全身にゾクゾクが走る。
気持ちいい。
すごく、気持ちいい。

私の身体を知り尽くした薫の愛撫。

不意に、薫が私を手放した。
驚いて薫を見た。

「……泣くほど……嫌か?」
そう言った薫の目も潤んでいた。

「嫌じゃない……でも……」
私は慌てて否定してから、目元に手を遣った。
両目から滝のように涙が流れ落ちていた。
私は確かに泣いていた。

……何で泣いてたんだっけ。
多少の頭痛とともに、現実が波のように押し寄せた。

違う。
薫じゃない。

「専務が好きなの。」
やっと、出てきた言葉に、私自身が打ちのめされた。

ここにいるのは、薫なのに。
幼なじみで、ずっとずっとずーっと仲良しだった……誰よりもいっぱいセックスもした、大切な奴なのに。
……私……もう、薫を……気軽に受け入れられないんだ……。

「助けてくれたのに……ごめん。」
自分がすごーく、わがままで身勝手でずるい女な気がした。

でも、むしろ薫は、笑顔でうなずいた。
「いや。……そうか。よかったな。……夕べ、ぐっちーから、何回も電話あったぞ。にお、起きなかったから、出てないけど。……電話してあげれば?」

よかった?
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