専務と心中!
「よかった、って、何がよかったの?……椎木尾さんが死んで……専務が逮捕されるかもしれないのに……」

支離滅裂だ。
こんなこと、薫に言うことじゃない。

頭ではわかってるのに、私は泣きながら薫にそう言ってしまった。
たぶん、甘えて、癇癪をぶつけてたのだろう。

さすがに付き合いの長い薫は、私以上に私の機微がわかるらしい。
私を抱き寄せて、よしよしと頭を撫でたり、背中を軽くとんとん叩いて、子供のようにあやしてくれた。

私は、ますます気持ちよくて……遠慮することなく、泣きじゃくった。

「におの元彼のことは、よくわからないからノーコメント。でも、ぐっちーのことは、よかったって思う。におが、やっと本気で男と向き合う覚悟を決めたことが、よくわかった。……だから、よかった。おめでとう。……くやしいけど、ぐっちーはイイヒトだから、俺、少しはうれしいよ。くやしいけどな。……いや、やっぱり、くやしいわ。……まあ、におが幸せならいいんだけど。……くそぉ。」

薫は何度もそんなことを言っていた。
どうやら本気で、専務とのことを応援してくれてるらしい。

「覚悟……なんか、ない。このまま専務が逮捕されたり、会社を辞めさせられたりしたら……私、くやしくてくやしくて……椎木尾さんの位牌にお焼香、投げつけちゃうかも。」

そう言ったら、薫はくっと笑った。

「……にお。……そうか。……まあ、におは、今さら、金や地位や名誉に、目がくらむことはないだろうけど……そうかぁ……ぐっちーが社会的敗者になっても、見捨てる気ぃも、ないのか。」

薫は肩をふるわせて笑ったあと、私の目を見て言った。

「いいんじゃない?ぐっちーと心中で。……あ、自殺じゃなくて、心中車券の心中、な。」

……心中。

そうね。
別に、この世で添い遂げられないからあの世で結ばれたい、とかいう心中は、さらさらする気になれない。

私は、専務と生きたい。
専務の優しいけど強引なところとか、変人なところとか、穏やかな紳士っぷりと、どギャンブラーな一面とか……とにかく、もっと知りたい。

一緒にいたい。

だから、専務のこれからの人生に私の人生を全て賭ける。
専務が没落するなら、私も一緒に落ちる。
それでいい。

「ありがとう。薫。……なんか、腹がすわったかも。」

私は笑顔でお礼を言った。

少しだけ淋しそうに、薫がうなずいた。
< 105 / 139 >

この作品をシェア

pagetop