専務と心中!
とりあえず、電話してみた。

すぐに繋がった。

けど、すぐに切られた。

今はまずいってことかしら。
じっと携帯を見てると、専務からの着信。


『にほちゃん!無事なんだね!?よかった……よかった……。』

専務、声がかすれてる。
憔悴しきってるのだろうか。

「おはようございます。私は、大丈夫。薫が匿ってくれたから。……専務は?しんどそう。……帰れへんの?」

そう尋ねると、専務はしばしの沈黙のあと、声を潜めて言った。

『帰れないことはないんだけど、息子に迷惑がかかるから、帰ってくるなって、お花さんに言われてね。……社長ともども、会社から出られない。』

なるほど。
利発そうな聡(さとる)くんを思い出した。

『今日も朝からいっぱい来てる。……にほちゃん、落ち着くまで、日本を出てるか?』

専務の提案に、ぎょっとした。

私?
そんなに、私の存在って……取り沙汰されてるの?

怖い。

でも、私は独りで逃げたくなかった。

手をぎゅっと握った。

「嫌。今こうして、専務と離れてるのも嫌なのに、海外とか有り得ない。……私、そばにいたい。こんな時やからこそ、一緒にいたい。」

薫が半笑いで肩をすくめて、部屋を出て行った。
ガチャガチャ音がしてる。
キッチンで朝食の準備でもしてくれてるのだろうか。

『……ありがとう。うれしいよ。でも、君に迷惑をかけるわけには、』
「迷惑ちゃうし!てか、私が邪魔なら我慢するけど。……もし、少しでも慰めになるなら、そばにいさせてほしい。」

専務の言葉を途中で遮ってそう言った。

かすかに嗚咽が聞こえた。

専務……泣いてる……。

「専務。好き。……これから、どうなっても、かまわない。好き。」
私は、洗脳のようにそう繰り返した。

専務は小さく、うんうんとうなずいていた。


しばらくして、専務はハッキリと言った。
『私は無実だ。逮捕されることはない。だが、引責辞任は免れまい。』

引責辞任?

「だって、専務は悪くないのに?」
『仕方ない。椎木尾くんの横領は、少し前から聞いていた。なのに、私は彼を諫めるどころか、彼を追い詰めたのかもしれない。……部下の命を守ってやれなかったのは、私の責任だ。』
『もー、統(すばる)、かっこよすぎ!どうすんの?会社、マジで辞めるの?その歳で、ぷー?無職?』

電話のむこうで、碧生くんの声がする。

専務、社史編纂室にいるんだ。
< 108 / 139 >

この作品をシェア

pagetop