専務と心中!
「じゃあ、おじさん。よろしくお願いします。」

夕暮れ時、専務はホームレスのおじさんに払い戻してきた二千万円を手渡した。

「請取書、いるか?」

ホームレスのおじさんはニコリともせずそう聞いた。

「まさか。……あ、でも、金が必要になったら、いつでも言ってください。その金を使われるより、おじさんに姿を消されるほうが困りますから。」

逆にニコニコして専務はそんなことを言った。

泥棒に追い銭、じゃないけど……ホームレスに二千万円……専務、意味わかんないわ。
まあ、わかんないけれど、よほどの信頼関係があるのだろう。
……たぶん。

「じゃ、行きましょーか。おじさん。僕が京都までお送りします。」

中沢さんが、そう言って立ち上がった。
ホームレスのおじさんも、二千万円の紙袋を抱えて立ち上がった。


玄関先まで見送りに出てくと、おじさんが言いにくそうに口を開いた。

「今さらだが……黙ってたことがある。去年の夏だ。横領した男にも、他に女がいた。あの時は、よくわからなかったが、今回の狂言自殺は、だいぶ前から計画してたようだ。……だから……気にするな。」

え!?

「狂言自殺!?……なんですか?」

びっくりしてそう詰め寄った。

おじさんは、気恥ずかしそうに後ずさりした。

「たぶん。年増女に唆されてた。」

……としまおんな?

そんな、見るからに年上の女性と二股かけられてたんだ。
しかも椎木尾さんは、そちらを選んだのよね。

何だかなあ……。
落ち込んだ私におじさんは、慌てて、失言を重ねた。

「まあ、あんたにも水島薫がいたから、お互いさまだろ。……いや、あの、そういう意味じゃなくて……。」

コホンと専務が咳払いした。

「おじさんの言う通りだ。どんなに水島くんがイイ男でも、椎木尾くんが結婚相手として優良物件でも、二股はいけないな。にほちゃん。もう二度と、俺以外の男に目移りしないように。」

偉そうな専務の言葉に、その場の空気が和んだ。

「まあねえ。ぐっちーは、イイ男でも優良物件でもないけど、布居さんに対する執着は誰にも負けないだろうし……観念して、ぐっちーにしときなよ。」

中沢さんの言葉に、ホームレスのおじさんもうなずいた。

なんだろう、この空気。
おっちゃんらに、よってたかって諭されてる気がする。

ものすごく恥ずかしいけど……笑えてきちゃった。
< 112 / 139 >

この作品をシェア

pagetop