専務と心中!
「何となく?情緒不安定だし、食事の好みが少し変化したようだし。……週刊誌のショックを引きずるには日数たちすぎ。布居さん、もっとサバサバして前向きだったはずだし。……家内も、妊娠したとき、やたら荒ぶったり悲観的になってたから、もしかして、って。検査してみてはいかがですか?」

……荒ぶってた?
私も?

「はあ。早速調べてみます。……てか、なんか、気をつかわせてしまってたみたいで、すみません。」

慌ててそう謝ったけど、峠さんはむしろニコニコしていた。

「今からなら、産休までに四稿ぐらいまでは行けそうですね。」

……え……まだ、原稿揃ってないのに……。

いや、でも!

「がんばります。私も途中で投げ出したくないです。」

気合いを入れてそう言った。
ら、峠さんは、うれしそうにうなずいた。

「お願いします。……俺は、八稿でも終わらず、色稿は工場で立ち会いってこともありましたよ。……そうはならないように、最初から厳しい基準で見ていきましょう。」

……八稿って……何でそこまでかかったの?
こわすぎる。

「ランチはカルシウム増強メニューにしましょうか。いやー、楽しみだ。」

私の妊娠が楽しみなのか、料理が楽しみなのか……とりあえず、峠さんは心から祝福してくださった。


温かい気持ちで私はドラッグストアに寄り、妊娠検査役を購入した。
帰宅後、すぐに計測してみた。
本当に妊娠してるみたいだ。

早速、統さんに伝えたいのに、留守。
ホームレスのおじさんのところに行ったようだ。

「え。……あの……におさん、これ……。」
真っ赤になって、聡くんが突っ立っていた。

足元に散乱する、妊娠検査役の外箱や説明書に、目のやり場がないらしい。

私は慌てて片付けた。

「やー、ごめんごめん。妊娠したみたい。……まだ統さんには言ってないけど。聡くん。いい?妹か弟が生まれても。」

恐る恐るそう尋ねたら、聡くんは頬を染めたままうなずいた。

そして、真面目な顔で言った。
「おめでとう。……あの、におさん、ちょうどいい機会だと思うので……聞いてもらっていい?父に内緒の話。」

へ?

「なぁに?……え?まさか、聡くん、彼女ができたとか?その彼女が妊娠したとか?」

ついついそう聞いてしまった。

聡くんは、きょとんとして、それから手を振った。

「ちがうちがう。僕じゃなくて。……どうやら、向こうにも、できてるみたいなんだ。弟か妹。……明らかに計算が合わないからさ……たぶん、妊娠したから離婚を承諾したんだと思う。」

え?
ええっ?
誰の話?

え?

それって、マダム?
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