専務と心中!
「タンは、陳と言う字。こざとへんに東の。シンガポールで一番多い苗字なんだって。ウーロンは漢数字の五の下に口を書く吾(われ)と言う字に、難しいほうの龍。で、ウーロン。」

「なに!?吾と龍だと!?」
統さんが、珍しく大きな声でそう聞き直した。

……それは、私のお腹の子が生まれたら名付けようと、統さんが心づもりしてる名前と同じ漢字だった。

まあ、お腹の子が男か女か、まだわかんないんだけどね。

「はい。ウーロンのお父さんは、タン・ウーイ。……それ以上は、何も聞かないでください。」

そう言って、聡くんは、2枚めの画像を見せてくれた。

それは、幸せそうな核家族の肖像画のような写真だった。
赤いチャイナドレスを着た、臈長(ろうた)けた美しいマダムが、中央の椅子に座って、可愛い赤ちゃんを抱いていた。

そのすぐ横に聡くん。

そしてマダムを挟んで反対側にすらりとスマートに立っていたのは……椎木尾さん!


「……。」

「……。」


何も聞くなと言われたので、私たちは何も言わなかった。

いや。
もはや、言葉は何も必要ない。
この写真を見れば、一目瞭然だ。

椎木尾さんは、生きていた。

そして、椎木尾さんの年上の女は、マダムだったんだ。

マダムは、椎木尾さんの子供を授かったから離婚に応じたのか。

椎木尾さん。
自殺じゃなくて、マダムと駆け落ちしたんだ。
横領したお金も、そのための資金だったのだろうか。

……そっかあ。

椎木尾さん……そっかあ。

私はもう一度、聡くんの携帯を見せてもらった。

……うん。
椎木尾さん、穏やかなイイ顔してる。

それで、もう、いいよね。

「……よかった。」

そう言ったら、涙がこみ上げてきた。

よかった。
本当によかった。
生きていてくれて、ありがとう。

どうか、幸せに……。

会社も、家族も、趣味も、名前も、国も捨てて、遠い異国で、問題ありありなマダムと暮らすのは、たぶん一筋縄ではいかない大変な苦労だろう。
でも、幸せになってほしい。

心からそう祈った。

統さんもようやく得心できたらしく、ため息をついた。

「なるほど。横領の責任を俺になすりつけたのは、マダムか。……そういうことなら、早く言えばいいのに。破滅型だよなあ、あの2人。まあ、でも、スワッピングじゃないんだから、マダムとにほちゃんを交換ってわけにもいかないか。」
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