専務と心中！

持参した雑誌を読みつつ、たまにレースに参加して時間をつぶす。

７レース発売中に、最終レースに出場する選手の紹介があった。
私は特別観覧席を出て、ぐるりとバンク（自転車競技用走路）を半周してホーム（正面）側のゴール前へと移動した。

いつもはまばらな客しか入ってないのに、今開催は平日の割にはヒトがいた。
この競輪場にとっては年に１度のビッグレース。
全国から強い選手が集うため、遠征してきたファンも多いようだ。

中には若い女性もいて、場違いな格好をしてたり、黄色い声援を送っている。
……まあ、私もそういう風に周囲から見られてるんだろうけど。

ゴール前の金網付近は、既に人だかり。
割り込むのは気が引けたので、ゴール前から少し離れた４コーナーのほうの金網に張り付いた。

司会の女性が９人の選手に一言ずつマイクを向ける。
４番車の薫に順番が回ってくると、ファンが色めき立った。
独身の若いそこそこイケメンなので、女性ファンは多い。
が、最近は行きっぷりのよさで、男性ファンもついてるようだ。
地元の気楽さもあるのか、野次とも応援ともつかない声がいっぱいかかっていた。

最後の９番車が、薫の師匠の泉さん。
場内の野太い歓声がひときわ大きくわいた。
さすが、地元の雄。
もともとは、むしろ嫌われ者の一匹狼だったのに、去年、薫のおかげでタイトルをとってからはコロッと変わっちゃった。
扱いが丁重になったことで、ご本人も気をよくしてらっしゃるのか、タイトルホルダーの自覚なのか、競走スタイルまでクリーンになってる。
今開催は、弟子の薫がいるから、まあ、優勝間違いないだろう。

……私にとっては敵だわ、敵。

９人の選手紹介が終わると、選手達はファンに向かってプレゼントを投げ入れる。
プレゼントと言っても、粗品程度のものだけど、ファンにとってはうれしいサービス。
まるで餌に群がる池の鯉のように、みんな必死で争奪戦を繰り広げる。

離れたところにいた私は他人事のように、遠巻きに眺めていた。
ら！
飄々と歩いてこっちに来る選手が１人。

……薫の師匠の泉さんだ。
びっくりして硬直してる私に、泉さんは金網の隙間から丸めたタオルを手渡してくれた。

ふふんっ……って感じの挑発的な半笑いを浮かべて。

こわっ！

選手が退場してくと、ゴール前に集まっていた客達も解散してく。

私も特観席に戻ろうと歩き始めたら、背後から声をかけられた。