専務と心中!
わかってる。
薫の気持ちは、ずっとわかってた。

小さい頃から、私は薫の友達で、想いびとで、姉で、妹だった。
4年前、薫のお母さんが亡くなってからは、母親も兼帯だ。

……そりゃ、居心地いいよね。
でもこのままこの関係が続くと、そのうち私は、薫の姑と小姑も兼ねることになるのかもしれない。
さすがにそれは……きついな。

「怒ってない。淋しいだけ。何だかんだゆーて、うちらって、共依存やと思うから。」

私は無理にほほえみすら浮かべてそう言った。
明後日から4日間のレースを控えてる薫に、余計な心配をさせたくなかった。

「うん。共依存やな。……もう少しこのまま。いい?」
薫は気弱な少年のようにそう聞いた。

もちろん私に異存はない。
明日の朝まで時間はまだたっぷりある。

「このままじゃ冷えるわ。……あっためて。」
そうおねだりすると、薫はうれしそうに私を抱き上げた。
慌てて薫の首に手を回してしがみつく。

たくましい、力強い腕にしっかりと抱かれて、安心感に息をついた。
……ほんと、共依存よね。



結局、朝まで寝たり起きたり、ずっと戯れてた気がする。

「にお、大丈夫?会社で居眠りしぃひんか?」
いっぱいヤッて超ご機嫌さんの薫が、慌てて身支度をする私を気遣う。

「うん。昼から爆睡決定。……でも、金曜、有給取るから、今日と明日はちゃんと会社行ってくる。」
「え!応援、来てくれるん!?」
薫のテンションが目に見えて上がった。

かわいいな。

「うん。金土日と行く。初日で負けんときや。」
そうハッパを掛けると、薫はニヤリと笑った。
「大丈夫。俺、今回、特選スタート。……まあ、予選回りでも負ける気ぃせんけど。」

あ、薫の顔が勝負師の顔に変わった。
……カッコイイやん。

私は引き寄せられるように、薫の頬にキスして立ち上がった。
「じゃ、行くわ。がんばってね。」
「おー。声かけてな。待ってるし。」




そうして、金曜日。
私は会社をサボって競輪場へと向かった。

外は寒いし、喫煙者も多い。
有料の特別観覧席の行列に並んで、エアコン付きのマイシートをキープした。
一応、禁煙ルームなので、空気もマシだし。

無料のドリンクを飲みながら、前日の初日のレースを復習した。
薫は11レースの初日特選レースに出場し、滋賀と兵庫の選手を連れて、逃げ切り1着。
そのおかげで今日は賞金の少し高い最終12レースに出走する。

……てか……いるじゃんか。
同じレースに薫の師匠の泉さんの名前がある。

あーあ。

これで、今日は泉さん1着、薫は2着だわ。
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