専務と心中!
「泉さん、舐められてはるん?」

薫が後ろを気にして何度も振り返ってる。

「てゆーより、遺恨?去年、あっちの記念でしょーりが空気を読まないレースしちゃった意趣返しだろうね。」
「記念って、何?」

専務の質問を中沢さんは、無視した。
……というか、泉さんのことが気になって、それどころじゃないのだろう。
中沢さんは、さっきまでと全然違う空気をまとってピリピリしていた。

「競輪場の開設を記念して、全国の各競輪場で年に1度行われるレースです。この奈良のように、G1と呼ばれる特別競輪が行われない競輪場では、1年間で1番大きな開催なんです。」

代わりに専務にそう説明したけど、周回してきた薫の困った顔を見て、私……なんか、キレてしまった。

「南関-!空気読めや!」
つい、イラッとして、そう言ってしまった。

ゴール前から離れた第3コーナー付近にいたこと、まだ青板(残り周回3周)前で比較的場内が静かだったため、私の大きめの地声は走行中の選手の耳にも届いたらしい。

薫はパッと私を観た。
そして泉さんは、あからさまにクッと笑った。
他の選手達も、こっちを観た気がする。

「……にほちゃん……キャラ変わってる・・・」
専務のつぶやきに、しまった!と思った。

呆れられた……。
せっかくイイ印象抱いてはったっぽいのに。

けど、もう遅い。
私は開き直って、金網をぐっと掴んだ。

選手が青板を過ぎて、再びこちらに向かってくる。
誘導員がバックストレッチにかかった時に、中沢さんが言った。
「布居さん、もっぺん声出して!水島くーんでも、泉さーんでもいいから!……はいっ!ほら!今!」

突然そう指示されて驚いたけど、私は操られるように声を出した。
「泉さーん!水島くーん!」

隣で、ぶはっと専務が吹き出して笑った。

「ぐっちー。集中!」
小声で中沢さんが専務を窘めたその時、レースが動いた。

「けっ!」
泉さんの鋭い声が聞こえた……「行け」と言ったらしい。

なるほど、さっきから声をかけている若い女の声の正体が気になったらしく、チラッと南関ラインの先頭の自在選手がこっちを観たその隙を見逃さず、泉さんは薫に発進を指示したらしい。

薫は素直に泉さんの指示に従い、一気に踏んだ。
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