専務と心中!
「うん。よく似合ってるな。」
満足そうに専務はうなずいて、自分は黒いベンチコートのファスナーを首元まで上げた。

……虫みたい。
私が言わなくても、合流した中沢さんが言ってくれた。

「あれ~。今日はあったかい格好してるね。……でも、ぐっちー、ダンゴムシみたいだよ。」
「……。」
専務はあからさまにしょんぼりしていた。

……やばい。
マジでかわいい……このヒト。

「専務。ファスナーじゃなくて、上下を開けてボタンで留めるとか。」
そうアドバイスすると、専務は素直に従いつつ周囲をキョロキョロした。

「今日はヒト、多いね。日曜日だから?決勝戦だから?」
確かに、いつもとは比較にならないほど賑わっている。

「だから窓口の行列、なかなかのもんだよ。早めに買っときなよ。」
中沢さんはそう言って、予想紙を見せてくれた。

「……一昨日、空気を読んでなかった南関が、また、仕掛けてこない?」
専務が首を傾げながらそう聞いた。

……もしかして、専務、競輪を勉強してきたのかな。

「どうかな。まあ、決勝戦だから遠慮はないだろうけど、あちらさんは4人で、前2人が先行選手だから、二段駆けじゃないかな。

え……。

「じゃあ、地元ラインは?苦戦する?」
「うーん。水島くんのほうが脚力あるけど、330m(さんさん)バンクだけに、ズドンと行かれると追いつくのは大変だろうね。」
中沢さんはそう言って、苦笑した。
「まあ、師匠連れた水島くんが出渋るとは思えないから、失格覚悟で青板から誘導抜く勢いで逃げるんじゃない?」

失格って!
そんなことしなくていいから!

しはし熟考して、車券を購入する。
薫が師匠の泉さんのために滅私奉公して飛んでしまう泉さん頭(1着)流し、普通に薫と泉さんの折り返し、……それから、薫が1着でヒモ(2着)は泉さん以外の流しの車券。

「ふーん。手広くいくかと思ったけど、無難だね。地元だけか。」
私の車券を見てそう言った中沢さんは、もっと絞ったようだ。

「え?中沢さん、泉さん頭(1着)しか買ってないの?強気!」

「だって、僕、しょーりのファンだもん。頭流しのみだよ。」
中沢さんは、飄々とそう言ったけれど……心なしか緊張が伝わってきた。

本気で応援してるんだなあ。
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