専務と心中!
「ぐっちーは?」

中沢さんにそう聞かれて、専務はピラリと1枚の車券を見せた。

「え!?一点張り……百万円……。」

嘘でしょ?
さすがに絶句した。

でも専務は、にっこりとほほえんだ。
「これでも、昨日払い戻したお金の半分以下だよ。大勝負。……楽しいだろ?」

……楽しくない。
なに?それ。

「うわ!しかも、薫とのワンツーじゃない!薫は飛ぶって?……ひどーいー!」

専務は、近畿ラインの三番手、つまり泉さんの後ろに並ぶあまり強くない中堅選手を2着に決め打ちするようだ。

「ひどい、って。……にほちゃんも、抑えてるじゃないか。てか、これ、3人とも買ってるんだな。よーし、みんなで的中だな。」
専務はまるで確定事項のようにそう言って、ご機嫌さんだった。

……てゆーても、額が違うよ。
専務は百万、中沢さんは5万円、私は……千円。


10レースが終わり、決勝メンバーの脚見せが始まった。
薫はいつもより緊張して見えた。

「水島くーん!よろしくねー!」
中沢さんがそう声をかける。

「泉さんには声かけないんですか?」
そう尋ねると、中沢さんは肩をすくめて苦笑した。
「見てごらんよ。しょーり。ぴりっぴり。何叫んでも聞こえないよ、あれ。……ま、今日のしょーりは、強いよ。」

ずいぶんと自信たっぷりだな。
……買い足そうかしら。


決勝戦は、金網ではなくスタンドに座って観戦した。
中沢さんがどんどん口数少なく、固まってく……緊張してはるなあ。

対照的に、専務はずーっとニコニコしていた。

「ご機嫌さんですねえ。」
つい、そう言ってしまった。

「うん。お金だけじゃなくて、願掛けもしてるんだけどね……負ける気がしないんだよね。」
専務はそう言って、にっこりと私に笑顔を見せた。

「願掛け……ですか……。」
聞いちゃいけない、気がした。
気遣いや遠慮じゃなく、私の中の危機察知能力だったのかもしれない。

でも専務は、そんな私の葛藤をあざ笑うかのように、飄々と言った。
「うん。南関ラインの二段駆けに対抗するには、水島くんは自分が残るレースなんかできないと思うよ。泉さんは、行け行けGOGO状態らしいから、俺もあやかろうと思ってね。」

……あ……やばいかも。
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