専務と心中!
号砲が鳴って、選手がじりじりと動き出した。
4人とラインの長い南関勢が正攻法に構える。
やはり二段駆けなんだろうな。

薫たち、地元ラインは後方7番手を回っていた。
青板(残り3周)で、薫がすーっと上がってくる。
ゆっくりじわじわと前へ前へ……。

地元ラインの圧力に、南関ラインの若い先頭選手も、早めに踏んだ。
薫もスピードを上げる。

……てっきり、薫は先行争いを演じるのだと思っていた。
でも、地元ラインの作戦は、南関ラインの分断!

わずかに踏み遅れて、少しだけ空いた南関ラインの3番めを走行する選手に、薫は切り込んだ。
慌てる南関3番手の選手を、泉さんが頭突きの1発で怯ませる。
ずるずると下がってく空間に、近畿ラインはすっぽりとハマった。

ここで、赤板(残り2周)。
しばらく脚を溜めて、打鐘(残り1周半のジャン)を過ぎてから、捲るのだろうと思っていた。
けど、薫は打鐘前にもう前へと踏み上げてく。
先行する南関ラインの二番手を走っていた選手が、薫に合わせて出た。

……本来なら、南関二番手選手の後ろにあと2人の南関選手がいるはずだったけど、さっき薫たち近畿ラインが入ったので、南関は単騎。

こうして外側から見ていると、薫は脚を緩めて南関二番手の選手のすぐ後ろを走ればいいのに……って思うんだけど……一度踏み始めた脚はもう止められないらしい。

薫は、南関二番手選手と先行争い状態。
併走では外側が不利だ。
でも薫はまだ残り1周以上あるのに、頭を下げてメイチ(目一杯)で踏んだ。

これは、まずい。

案の定というか何と言うか、完全にこのレースで空気に終わると思っていた中国四国ラインの2人がぐわっと上がってきた。
2つのラインがやり合ってヘトヘトになったところを、残りのラインがひと捲りなんて、最悪の展開だ。

最終周回の第2コーナーで、中国四国ラインの2人が近畿ラインの3番手の横まで追いついてきた。
この時、既に薫は南関選手との先行争いを制していたけれど、もう脚はいっぱいいっぱい。
飲み込まれる!

ギュッと両膝で握りしめた私の拳を、ふわりと専務の手が包み込んだ。

びっくりして専務の横顔を見た。
専務は、瞳孔を開いて、バックを走る選手達を見つめていた。

……無意識……ってことはないよね。
こんな時に、無駄にドキドキさせないでほしい。
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