専務と心中!
しばらくして、中沢さんが救護室にやってきた。

「ぐっちー、大丈夫?ご飯、行ける?」
「……ぎっくり腰だって。ご飯どころか、車の運転も無理だな。」
専務は、トホホ顔でそう言った。

「え!……布居さん、運転できる?」
私は、慌ててぷるぷると首を横に振った。

「そっか。うーん……じゃあ、やっぱりご飯行こ。そのあとで、僕が送ってくからさ。」

……中沢さんはどうしてもご飯に行きたいらしい。

「もうどこか予約しはったんですか?」
そう尋ねると、中沢さんは首を傾げた。
「さあ?どうかな。」

何だ?それ。

「誰かと一緒なのか?……だったら、中沢、行って来いよ。俺は、タクシーででも帰るから。」

すると、中沢さんは眉をひそめた。
「ぐっちー、何、言ってんの!?大儲けしといて、独り占めはダメだよ。ちゃんと、みんなにご馳走してくんなきゃ。あ。そうだ!京都に行こう!遠いけど、ぐっちーを送れるし、一石二鳥だね。」

図々しい中沢さんの提案に、専務は苦笑し、私は怒った。
「中沢さん!専務、こんなにつらそうなのに、何てことゆーんですか!中沢さんだって、充分大金ゲットしたでしょ!?」

専務の頬がゆるむ。
私が専務のために怒ったことがそんなにうれしいのかな。
調子狂うわ。

「まあ、とりあえず、京都まで連れて行ってくれるのはありがたいよ。じゃあ、俺の行きつけの料亭でいい?顔が利くから。……何人?」

専務の言葉を受けて、中沢さんはいそいそと電話をかけた。

「あ。僕。……うん。京都でご馳走してくれるって。え?祇園?……それは、しょーりの賞金で行ってよ。ぎっくり腰なんだって。……うん、でも、お金だけ払わせて帰すわけにもいかないでしょ?料亭なら、くつろげるし。……そっちは?何人?」

……中沢さん?
誰に電話してる?
まさか……まさか……。

「え?それだけ?……しょーり、ほんと人望ないね。誘導も連れてきなよ。」

中沢さん?
人数増やそうとしてない?
ヒトのお金で……何てヒトだ。

呆れる私をよそに、専務は肩を震わせて笑っては、腰に響くらしく悶絶していた。

……まあ、専務のお金だし、専務がイイなら私が文句言う立場でもないんだけどさ。
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