専務と心中!
薫の背中がやけにたくましく見えた。

漢(おとこ)だなあ。
うん、薫、かっこいいよ。

彼女と別れたなら、今夜は私の出番かな?
慰めて甘やかしてあげよう。

そう思ってたんだけど……じとーっとした視線に気づいた。
専務が、見てる。
薫を見てる私を、見てる。

……えーとー……。

敢えてにっこりと笑顔を貼り付けて、専務に向き合った。
「車と一緒に、車券の払い戻しも薫に頼んだらいかがですか?大金だし。」

薫の実家はもともと駅前に土地を持ってて裕福だし、お父さんは世界中を飛び回る商社マン。
薫自身も、今は同年代の社会人の15倍は稼いでるだろう。
人柄的にも、他人のお金に手を着ける人間じゃない。

でも、専務は少し考えてから言った。
「いや。確か期日は60日だよな?……それまでに、正式に離婚して、にほちゃんを口説いて、ドライブデートのついでに払い戻すことにしよう。」

ちょっと!?
薫がいるのに、何、言ってくれるかな!?

思わず睨む私の手を、専務はそっと両手で包み込んで唇を押し付けた!

……勘弁してくださいよ。
もう~~~。

手を振りほどこうとしたけれど……専務は、むしろほどけないように、指を絡めて手を握った。

睨んでも、好いたらしい笑顔とウィンクで誤魔化される。

私は、何も言えなくなってしまった。

やばい。
敵わない。
……流されそう。

程なく、専務のご自宅、つまり社長宅に到着した。
平社員でしかない私は、もちろん初めて訪れたのだが……すごい。
銀閣寺の近くの豪邸は、高い塀にぐるりと囲まれていて、中が全く見えない。

「ありがとう。」
専務はニッコリと微笑んで、薫にそうお礼を言った。

「いえ。……車も、会社よりこちらに届けに来たほうがいいですよね?……って、大丈夫ですか?」
薫はそう聞きながら、起き上がろうとして動作を止めてしまった専務に手を差し伸べた。

「……何とか……。」
専務は、そう言ったけどめちゃめちゃ痛そうで、表情まで固まっちゃった。

「気持ち悪いかもしれませんが、我慢してください。よっ!」
「え!うわっ!」
薫は、専務をお姫様抱っこして、車から下ろした。

「にお、門、開けて。」
「開かへん。インターホン押す?」
石造りの重たそうな門扉は、押してもびくともしない。

「ああ。押してくれ。お手伝いさんが出てきてくれるはずだ。」

薫に抱き上げられたまま、専務はそう言った。
< 43 / 139 >

この作品をシェア

pagetop